3月2日、中国の軍用機2機が尖閣諸島の日本領海近くにまで接近するという事件が起きた。それに対して航空自衛隊が戦闘機を緊急発進(スクランブル)させ、間もなく中国軍機は去った。領空侵犯こそなかったものの、防衛省は「中国軍機が尖閣諸島にここまで近づくのは初めて」としている。

 翌日、3日に記者会見に臨んだ枝野幸男官房長官も、「中国の軍事力の近代化と活動活発化は、透明性の不足とともに懸念事項だ」と動揺を隠さない。ただし、「中国の飛行機は日本領空外を飛行していたので、国際法や安全の問題がある行為ではなかった。抗議はできないが、動向を注視していく」と、結局は「事なかれ」を決め込んだ。

 そして7日には、中国国家海洋局のヘリコプターが尖閣諸島近くの日中中間線付近で、海上自衛隊の護衛艦に異常接近するという事件も起きている。日本は、中国に完全になめられている。

国土交通相の口から飛び出した「海上警察権の強化を」発言

 2010年9月に起きた、いわゆる「尖閣諸島中国漁船衝突事件」で、中国側は、尖閣諸島周辺を「自国の領海・領土」と強調。そのうえで、「自国の海域で操業していた漁船に日本の国内法が適用されるなど荒唐無稽」だと反発し、日本側が逮捕した中国人船長の釈放を求めた。

 さらに中国側は同海域に漁業監視船を派遣し、「日本との閣僚級の往来を停止」や「航空路線増便の交渉中止」など次々と実力行使に打って出る。中国国内で日本人ビジネスマンを拘束して「捕虜」にするような行為に、日本人は憤懣をつのらせた。

 こうした中国側の「圧力」に、日本側は中国人船長を処分保留のまま釈放してしまう。日本国民の中に大きな不満が残ったことだけは間違いない。海上保安庁が撮影していた中国漁船衝突のビデオ画像をインターネット上で不法に流出させた海上保安官を支持する声が少なくなかったのも、日本政府の対応に対する不満の表れだったと言える。

 そして飛び出したのが、「海上警察権の在り方の徹底的な見直しが必要だ」という馬淵澄夫国土交通相(当時)の海上警察権強化発言だった。2010年11月17日、参議院予算委員会の席でのことだった。

 海上警察権を行使するのは海上保安庁(海保)である。その海保を所管するのが国土交通省なのだ。そのトップである大臣が強化への見直しを国会の場で発言したのだから、政府としても本腰で取り組むべき課題と認識していたと思われる。

 実際、2011年1月24日に行われた第177回国会における施政方針演説で、菅直人首相も、「海上保安強化のため、大型巡視船の更新を早めるなど体制の充実を図ります。海上警察権の強化も検討します」と明言している。