それは同時に指導者育成にも影響を及ぼした。ライセンス取得のための講義は、日々進化するサッカーの戦術を理解するだけでなく、いかにチームにその戦術を落とし込んでいくのかという手法を学ぶ機会でもある。

 コンディショニングやメンタルコントロールなど、生身の選手を扱う指揮官に必要な力をあらゆる面から養う。そこにおいてITテクノロジーを軽視するわけにはいかなかった。データという数字だけでなく、映像を使うことでチームの方向性を示しやすくなるし、より効果的に試合を分析し、相手を知り、その対策を選手たちに伝えることができるからだ。

 その手法を身に着けた世代の監督が「ラップトップ・トレーナー」と呼ばれるのには、そんな理由があるのだろう。

 彼らと接していてなによりも驚くのは、若い監督たちそれぞれが独自のサッカー哲学をしっかりと持っていること。そのスタンスには、「デジタル」にある冷静な印象よりも、熱量を感じる。

 どんなに発展的で画期的な戦術を描いたとしても、それを選手たちがピッチで実践しなければ、意味はなさない。大切なのは、「選手を動かせるか」ということ。だからなのか、彼らは高い語学力の持ち主であることが多い。英語は当然として、スペイン語やフランス語など、ドイツ語以外の言葉を自由自在に操る。それは多くの国から選手が集まるブンデスリーガでは欠かせない能力なのかもしれない。

ヴォルフ監督に授けられた新しい役割

 今シーズン途中、そのうちの一人、ハネス・ヴォルフが、僕の所属するハンブルガーSVの監督に就任した。37歳のハネスがボールを蹴っているのを見たことがない。スパイクをはいている印象すらない。

 そして選手たちはそんなことを気にも留めない。トップリーグともなれば、ボールの扱い方を選手に教える必要はない。

 2017年、ドイツサッカー連盟年間最優秀監督賞を受賞したヴォルフ監督は、僕に対して新しいタスクを与えてくれた。

 僕は長くサイドバックというポジションでプレーしている。サイドバックはその名の通り、守備的なポジションだが、ゴール前に立つセンターバックと比べれば、攻撃的な役割も多い。広いピッチで上下運動を繰り返すスタミナやパワーが求められる仕事だ。

 陣形がよりコンパクトになった近代サッカーにおいて、攻守の切り替えはどんどん速くなり、中央突破だけでは相手ゴールを攻略することが難しくなる。それとともに、サイドバックがサイドだけで仕事をしている時代は終わろうとしている。

 相手がボールを持っているとき(いわゆる攻められているとき)、僕はサイドバックとしてディフェンスラインに入って守備をするが、ボールを奪った瞬間、僕はポジションを中央に移すよう、ヴォルフ監督に指示されている。

 守備的ミッドフィルダーの位置に立ち、ボールを受け、味方を使う。僕の立つ位置や走り方によって相手も動かすことができ、その結果、味方が有利な状態でプレーできる。サイドバックのような上下だけでなく、左右にも動くことで、チーム全体のシステムも流動的になる。