1 はじめに
昨今の軍事作戦において、ネットワーク中心の作戦(NCO:Network Centric Operation)の重要性が叫ばれ始めて久しい。
NCOとは、端的に表現するならば、多くの兵器システムを通信ネットワークで結び、連係させることにより、部隊の作戦能力を高め、敵に対して自分の意図通りにできる主動の地位を得ようとするものである。
冷戦後期、まだNCOという言葉もネットワークという概念すら十分に確立していたとは言えない時代に、既にソ連では来るべき新しい時代の予兆に脅えていたことを、ジョンズ・ホプキンス大学(SAIS)教授で戦略学の大家エリオット・コーエンは次のように述べている。
「冷戦時代も後期、1980年代に入り、ソ連の軍事専門家たちは軍事技術、特にコンピューターや通信技術の発達によって、ソ連自慢の装甲部隊の移動が数百マイルも離れた地点から探知され、探知後30分もたたぬうちに自動制御装置を備えた対戦車ミサイルに次々と襲いかかられることになると懸念し始めていた」
「このことは当時、ソ連が西ヨーロッパで戦争が起きた場合に考えていた戦略、つまり大規模な装甲部隊を西ヨーロッパに押し出していく戦略の破滅を意味していた。さらにソ連は当時満足のいくパソコンを国内で製造する技術を持っておらず、情報技術に先導される米国との軍拡レースについていけなくなると考えていた」
冷戦の崩壊は、ソ連の経済的破綻、グラスノスチに代表される情報の自由化政策による情報化社会の浸透、米国の戦略防衛構想(SDI)、西側諸国の結束など多くの要因に基づくが、やがてNCOにたどり着くこのようなソ連の懸念も一因と考えられている。
そしてこの軍事情報技術の革新的発達に基づく作戦形態の変化は、1990年代の幾多の構想や議論を経てNCOと呼ばれるに至った。
それは、今では単に技術革新による兵器体系への影響にとどまらず作戦形態を大きく変化させ、軍の戦力構造や組織編成、運用ドクトリンや作戦構想、兵員の教育や訓練も変えていくものとの認識が一般的である。