「破壊活動」抑止へ新法

 治安部隊の疲弊も深刻だ。ここ数週間、デモは昨秋の開始当初と比べれば平和的に行われている。だが、肉体的・精神的負担の大きな現場での取り締まりに毎週末駆り出され、疲れを蓄積させた警官や機動隊員の労働組合が「我々を休ませろ!」と悲鳴を上げたのだ。「黄色いベスト」は国民の7割近い支持を得ているが、治安部隊のこの訴えも多くの同情を集めた。デモ対応で負傷した警官の家族に見舞金を送る募金運動が民間で始まると、一晩のうちに100万ユーロ(約1億2400万円)を超える資金が集まったほどだ。

フランス、駐イタリア大使を召還 大戦後「前例ない挑発」

フランスのエマニュエル・マクロン大統領、エジプトの首都カイロにて(2019年1月28日撮影、資料写真)。(c)Ludovic MARIN / AFP〔AFPBB News

 政府は破壊活動の抑止策を探っている。破壊活動や衝突事案を減らすには効果的な抑止が肝要というわけである。これが仏版「破壊活動防止法」制定への動きだ。

 折しも仏国民議会では、中道保守・共和党所属のブリュノ・ルタイヨ上院議員が昨年6月、テロ抑止強化に向けた法案を提出し、上院では可決されていた。ルタイヨ氏は「暴徒やテロリストは集会の自由につけ込み、覆面をかぶるなど正体を隠して犯罪を犯している」というのが持論。治安当局が政界に「覆面をかぶった犯罪者を取り締まる権限を与えてほしい」と要望していた経緯もある。

 法案は下院へ回ったが、「黄色いベスト」のデモが頻発すると、政権を支える下院与党「共和国前進」も、同法案が破壊行為抑止の有効な手段になるとみて、法案修正という形で新法制定に合流した。「反破壊者法」という異名が付いた法案は2月5日、下院(定数577)での「第一読会」後の採決で賛成387、反対92、棄権74で可決され、上院へ送り返された。その中身は、かなり強硬である。

デモ参加の覆面「危険人物」には刑罰

 まず、検察官による発令を条件に、デモの現場や近辺で一般人の手荷物や車両の安全検査を行う権限を警察に付与する。大統領が任命する各県知事には、公安上リスクのある「危険人物」にデモ参加を禁じる権限を与える。こうした人物の情報は顔認証も含め政府が管理し、監視カメラなどで動きを追尾できるようにする。また、危険人物が顔を隠してデモに参加した場合は禁錮刑や1万5000ユーロ(1ユーロは約124円)の罰金を科す――という内容だ。

 デモ参加は国民の基本的権利だと考える仏社会の実情を踏まえると、立法府が政府に強権を付与しようとしている事実は重い。パリ同時多発テロの記憶が生々しく残る事情もあり、強権発動も「やむなし」とする空気が広がっているのだ。