(舛添要一・国際政治学者)
1月29日、アメリカはファーウェイを起訴し、カナダに孟晩舟CFOの身柄引き渡しを要請した。これに対して、中国外務省は「アメリカは国家権力を使って特定の中国企業を攻撃し、経営を抹殺しようとたくらんでいる」と批判している。カナダはアメリカと中国の間で板挟み状況になっており、対応に苦慮している。
孟晩舟は、アメリカにとって利用価値のあるカードであり、米中貿易摩擦で中国から譲歩を勝ち取るための切り札にも使えると考えているようである。
ワシントンで、1月30日には中国側から劉鶴副首相、アメリカ側からはライトハイザー通商代表やムニューシン財務長官らが出席して、米中間で貿易摩擦の緩和を目指す閣僚級協議が始まった。アメリカによる追加関税の猶予期間が3月1日で切れるのを前にして、中国としては、知的財産権侵害、技術移転、サイバー攻撃などの問題で、ある程度の妥協をしても、何とか話し合いをまとめたいところである。
トランプ政権が対中危機感を募らせるのも当然
ファーウェイの起訴は、この閣僚級会議にタイミングを合わせたものであった。中国は、これに反発しつつも、国民世論が反米で沸騰しすぎないようにする配慮も働かせている。それは、大きな経済的不利益を被っている関税措置の撤廃を期待しているからである。
さらに、ファーウェイ起訴の背景には、アメリカと中国による先端産業分野での熾烈な競争があり、それは最終的には世界の覇権をめぐる争いにつながってくる。地理的に見ても、両国は世界中で鎬を削っている。たとえば、ベネズエラである。
経済が破綻状況にあるベネズエラは、現在政治的混乱の極みにある。マドゥロ独裁政権に対して、グアイド国会議長が暫定大統領に就任すると宣言したからである。アメリカやフランスが後者を支援しているのに対して、ロシアや中国は前者を支持しており、あたかも米ソ冷戦時代に戻ったような状況になっている。
言うまでもなく、これは世界一の埋蔵量を誇るベネズエラの石油をどちらの陣営が獲得するのかという争いでもあり、資源をめぐる争奪戦と言ってもよい。
中国は「一帯一路」政策を唱え、世界中に影響力を行使するネットワークを展開しつつあるが、中南米も当然それに含まれる。
世界システム論的に言えば、現在の「パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)」が将来的に「パックス・シニカ(中国による平和)」に取って代わられるのではないかという設問が可能である。アメリカは、そのような「悪夢」の実現を絶対に阻止したいわけであり、先端技術分野で台頭しつつある中国を今のうちに完膚なきまでに打倒しようとしていると考えてよい。その象徴がファーウェイCFOの逮捕なのである。