(舛添要一・国際政治学者)
2019年の年明け早々、厚労省の「毎月勤労統計(毎勤)」の不適切な調査が明るみになった。私は、2007~2009年に厚生労働大臣として、年金記録問題の解決に心血を注いだが、その「悪夢」の日々を思い出す。
調査を進めれば進めるほど、社会保険庁がいかに無責任なデータ処理をしていたかが分かり、怒り心頭に発したものである。社会保険庁は解体し、日本年金機構という新組織にして、年金定期便を国民に送るなどの改革を断行した。その結果、5000万件あった「消えた年金」も少しずつ解消していったのである。
元大臣として忸怩たる思い
今回の「毎勤」の法令違反調査は、従業員500人以上の事業所には全数調査が義務づけられているのに、東京都については約3分の1の抽出調査で済ませたものである。東京には大規模事業所が多くあり、賃金水準も高いため、約1500件のうち500件しか調査しなければ、賃金の平均値が下がってしまう。
「毎勤」は、56ある国の基幹統計の一つであり、これを基にして国の政策のベースとなる基準数字を確定していくのである。今回の不適切調査によって、雇用保険や労災保険の給付が少なくなったケースが2000万件あるという。その補正をすると、約600億円の追加給付、またそのための経費が約200億円かかるという。役人による不適切な処理が招いた大損失と言える。
このような不適切な処理が2004年から続いていた。2004年作業要領に「500人以上の事業所が東京都に集中し、全数調査しなくても精度が確保できる」とある。特別監察委員会の報告書によると、その後、課長級を含む職員が、不適切だと知りながら「是正の方策を検討することもなく、漫然と以前からのやり方を踏襲」し、「統計法違反を含む不適切な取扱いが長年にわたり継続」していたと指摘している。職員のその場しのぎの手抜きが山積すると大問題となり、結局は後で行う問題処理が大変になるのである。
2015年以降、厚労省内部で不適切な手法で調査されている実態を把握している者が表れてきてからの対応は隠蔽そのもので、年金記録問題の教訓が全く活かされていないのではないかと思わざるをえない。さらに、データ補正のために必要な基礎資料の2004~11年分が紛失していたり、廃棄されていたりしている。総務省統計委員会の西村清彦・委員長(政策研究大学院大学特別教授)は、「これでは統計として成立しない」と批判しているが、政府の基幹統計が整わないことになってしまう。