仏「黄ベスト」デモ13週目、男性1人が指4本失う重傷 「閃光弾の一種」が破裂か

仏パリ市内の国民議会(下院)議事堂周辺で行われた「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」デモの最中、「人民に力を」を意味する落書きの前でデモ隊と向き合う治安部隊(2019年2月9日撮影)。(c) Zakaria ABDELKAFI / AFP 〔AFPBB News

 マクロン仏大統領の「金持ち優遇」を批判し、生活改善や大統領辞任を求めて週末ごとに各地で続く「黄色いベスト運動」は2月9日、13回目を迎えた。寒さの厳しい年明け以降は参加者も減ったが、まだ毎回5~6万人の規模に達し、不満のマグマはくすぶり続けている。

 こうした中、デモ隊と治安部隊との激しい衝突が問題化し、政界は活動行為の抑止に向けた治安対策立法の動きを加速させる。自由や権利の侵害には敏感な仏国民だが、2015年秋のパリ同時テロの記憶もあり、政権は一歩も譲らぬ構えだ。一方、マクロン氏本人は、生活の窮状を訴える声が大きい地方の村々を訪ね、住民との対話姿勢をアピール。支持率は20%台で低迷するが、懸命に政権態勢立て直しを図る。

治安部隊は強気の武器使用

 デモ隊と治安部隊は週末ごとに激しく衝突している。内務省集計では、デモに関係する死者は少なくとも11人。負傷者は計2800人を超す。負傷者のうち1000人超が治安部隊の要員であることが衝突の激しさを示している。

 マクロン大統領は1月末、「人間の愚かな行為によって11人の命が失われたことを遺憾に思う。だが、治安部隊の行動の犠牲になった人は一人もいない」と強調した。だが、メディア報道は治安部隊の荒っぽい行動にも向く。一部は「権力によるデモ弾圧だ」(左派系紙リベラシオン)と政府を批判している。特に、治安部隊がデモ隊ともみ合うなかでゴム弾や催涙弾を発射する現場の様子は、動画がSNSに掲載されると「過剰対応」の印象とともに瞬時に拡散する。ゴム弾が目や頭部に命中し、失明や昏睡状態に陥ったデモ参加者も少なくない。

 2月9日には、パリの国民議会議事堂前で、デモ隊の男性が治安部隊と接触する間に右手を吹き飛ばされたとみられる映像がロシアの国際テレビRTで流れ、あっという間に仏国内で拡散した。仏メディアは、治安部隊に配備されているTNT火薬入り催涙弾が、男性の手に命中した可能性を指摘している。

「1968年以来の騒乱」

 デモに関連した死亡事案には交通事故や過失も多い。デモ隊は、道路を封鎖し、通行中のドライバーらに支持を訴えるため、交通渋滞もよく起きる。苛立った運転手が車を障害物に突っ込ませるなどし、その勢いでデモ参加者や警官らが巻き込まれて死傷している。

 犠牲者はデモ隊に限らない。南部マルセイユでは昨年12月末、暴徒が道路の敷石をはがして治安部隊めがけて投げつけるなどしたため、治安要員が催涙弾を応射して激しく衝突。現場近くのアパート5階にいた80歳の女性が、部屋に漏れ入ってくる催涙ガスを嫌って通りに面した窓を閉めようとしたところ、階下から飛んできた催涙弾が顔に命中。女性は病院で手当を受けたが、翌日ショック死してしまった。

 社会学者のファビアン・ジョバール氏は仏テレビに「これほどの暴力を伴う騒乱は、学生が秩序や権威に抵抗した1968年5月のデモ以来ない」と語り、驚きを隠さなかった。人権擁護を掲げる国際機関「欧州評議会」(加盟47か国)が、西欧の先進国であるフランスの政情に「懸念」を表明する異例の事態となっている。