フランス全土を舞台に11月中旬以降、マクロン政権に対する抗議デモが続いている。富裕層を優遇する減税と庶民に負担を強いる燃料税率の引き上げがデモの直接の発端だが、より大きくとらえれば、経済のグローバル化や情報技術(IT)の進展、人工知能などの革新的な新技術がもたらす経済と社会の「激変」に仏国民や経済を適応させていこうとする大統領の時間のかかる取り組みに、国民がしびれを切らした構図が浮かび上がる。
仏国民の多くは他の欧州国民と同様、グローバル化を否定的にとらえており、生活コスト上昇という、より直近の「痛み」に対する即効性ある対処を政府に求めている。このすれ違いは埋められるのか。
マクロン大統領は今月中旬から、改革への理解と忍耐を訴えるための「全国行脚」に乗り出す。その一方で、週末ごとの抗議行動は一部で暴徒化の度合いを強めており、治安悪化の懸念も強まっている。
政府庁舎を重機で襲撃
マクロン大統領への退陣要求も含む反政府行動へとエスカレートした週末ごとの「黄色いベスト運動」による抗議デモは1月5日、8回目を迎えた。仏内務省の発表で約5万人とされる全仏での参加者数は、13万人を超えた12月初頭のピーク時に比べて減少したが、クリスマス休暇前の3万人超に比べると多く、しかも過激さの度合いが高まった。
パリでは数千人のデモ隊が市中心部を国民議会議事堂に向けて行進し、シャンゼリゼ通りで気勢を上げたほか、夕刻にはセーヌ川左岸にある政府報道官(副大臣級)室が入る庁舎を暴徒化した集団が急襲、敷地と道路を隔てる門扉を建設重機で突破したうえ、庁舎の窓ガラスを割るなどの破壊行為に及んだ。デモに乗じて高級ブランド店に押し入り、物品を略奪する非行集団の存在はデモ開始当初から問題となっていたが、政府庁舎が襲撃され、街角に煙が立ち上る光景は、マクロン政権に対する鬱屈した不満の大きさを思わせる。近隣諸国には、この運動を1968年の「5月危機」や1789年のフランス革命と比較する報道まで出ている。「黄色いベスト」は体制転覆をもたらすほどの広がりには欠けるように見えるが、政権とデモ参加者との対立が先鋭化しつつあることは間違いない。