譲歩強いられる大統領

 マクロン大統領は12月初旬以降、抗議デモが収まらないのをにらみつつ、「痛みを伴う改革」を断行する方針は変えないものの、苦しい生活を強いられている国民には支援策を打ち出す姿勢を断続的に発信してきた。まず12月4日には、1月から導入するはずだった燃料税率引き上げの実施を「半年間延期する」と発表し、デモ隊の要求のひとつに応じてみせた。環境重視のための増税をひとまず脇へ置いた形だが、これだけでは抗議の声が収まらないのをみるや、10日にはマクロン大統領自身がテレビを通じて国民向けにさらなる譲歩をアピールした。

 具体的には、①月収が2000ユーロ(1ユーロは約125円)に満たない年金生活者が納める一般社会税の徴収額増額措置を2019年いっぱい猶予する。②19年の間、残業代に対する課税を見合わせる。③19年初頭から月額100ユーロ(約1万2500円)相当の法定最低賃金引き上げを行う。④19年末の給与所得者のボーナスを所得税の課税対象から外す――などの財政措置を矢継ぎ早に打ち出したのである。

 このテレビ演説の視聴率は80%以上に達し、仏国民の関心が並々ならぬものであることが、はっきりした。この演説以降、抗議デモの規模がある程度小さくなったことは、国民が大統領の姿勢をそこそこ評価したことの表れではあろう。

 だた、その代償は極めて大きい。これらの措置を実行するには19年度予算で80億~100億ユーロもの歳出増が必要となるため、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以下に抑制すべきことを定めた欧州連合(EU)の財政規律ルールに違反する事態を招きかねない。財源の手当は喫緊の課題だが、妙手はあるのだろうか。

 今回の抗議デモの底流に、フランス社会を広く覆うグローバル化に対する反感があることを指摘しておきたい。グローバル化が西欧や米国など先進諸国にもたらした影響には共通点がある。労働コストが先進国よりも安い国々へ産業が流出し、これに伴って失業率の上昇や高止まり、賃金の停滞・低下が起き、金融業界やITなど先進技術分野で就業する一部の層とそれ以外の層の間の格差が拡大する、などの問題である。フランスのGDPは2016年は1.1%増、17年は1.9%増と緩やかに拡大してはいるものの、その果実を得られず、生活水準がじわじわと低下している人々が少なからずいる。