大学が抱える資源不足という問題

 教育メニューは豊富にあるにもかかわらず、日本ではグローバル人材が育っていないと言われることが多いのはなぜか。そこには日本の大学が抱える問題があると濱中教授は言う。

 「文部科学省の方針のもと日本の大学は今、教育改革、国際化、高等教育の見直しなど、さまざまな重要課題を突きつけられています。各大学は懸命にそれに取り組んでいるのですが、問題は資源。つまり人です」

 このところ文科省では大学に対する財政的援助を、プロジェクト単位の競争的資金を中心に支出している。そのことによって新しい事業に関しては財源が確保できても、それ以外には資金が回らなくなっているのだ。

 「新しい事業に取り組むには職員の数が足りず、職員がするべき仕事が教員に割り振られてしまっています。その結果、教員が学生の指導に割く時間が削られているのが実態です」

 日本の大学も改革を求められながら動くに動けない状態に陥りジレンマを抱えているのだ。

 大学改革の成功例として知られるのは、米国のスタンフォード大学だ。同大学が21世紀の大学を創ろうと20世紀の終わりから取り組んだのが、1年生教育の見直しだった。

 “鉄は熱いうちに打て”の教訓のとおり、入学したばかりの新入生に大学での研究の魅力を知ってもらうため「フレッシュマンセミナー」という特別なプログラムを用意した。それは学生があらゆる分野の学問に接することができるというものだったという。

 学生を12人以下のグループに分け、少人数制のクラスを編成。学生が教員と1対1で対話ができる時間を増やす環境を作り上げたのだ。

 そうした環境で育った学生は在学中から次々に研究成果を上げ、社会に出てからも新しい発明をしたり、研究活動で実績を上げたり、産業界に革新をもたらすビジネスを成功させた。

 そのため社会で成功した卒業生から巨額の寄付金が集まるようになり、大学は潤沢な資金を得られるようになったのだ。

 スタンフォード大学の事例からも、1、2年生教育と少人数制は大学改革の肝であることが分かる。だが、日本の大学には改革に取りかかる余力がない。そこで企業がそこに着手し始めたと見ることもできる。