モンペリエでの大学生活を終え、フランスに残るにせよ日本に戻るにせよ、次のステップに移る前にどうしても実現させたいことがあった。
それはブルゴーニュに滞在し、ワインとそれを取り巻く文化を肌で感じることだった。
ブルゴーニュ地方のワインは言わずと知れた、ピノ・ノワールとシャルドネから醸されるとてもシンプルなワインだ。
シンプルでありながら深淵な味わいが何世紀も人々を魅了し続けている魔法のワイン。どうしたらそんな魔法がかけられるのだろう――。
その秘密がどうしても識りたかった。
ワイン好きにはたまらないシャトー・デュ・クロ・ド・ヴージョ
運良くブルゴーニュ内でも屈指の特級畑 クロ・ド・ヴージョ(clos de vougeot)に唯一存在する醸造設備を持つシャトー・ド・ラ・トゥール(Château de La Tour)で、その機会に恵まれることになった。
クロ・ド・ヴージョは、国道74号線をディジョンからボーヌ方面に向かってジュヴレ・シャンベルタン、次いでモレ・サンデニの看板を過ぎてすぐ、道路右手沿いに現れる。
時間にすると車で30分弱だったかと思うが、国道からclosと呼ばれる石垣に囲まれた約50ヘクタールのブドウ畑が目に飛び込んでくるので、見つけやすいと思う。
国道から石垣伝いに5分歩くとシャトー・ド・ラ・トゥールが見えてくる。さらに数分進むと、ブルゴーニュの象徴的な存在でワインに関心のある方であればだれでも一度は目にしているのではないかと思われるシャトー・デュ・クロ・ド・ヴージョが現れる。
このシャトーを建造したのはシトー派修道院の修道士たちなのだが、自給自足を掲げていた彼らによって中世の時代からクロ・ド・ヴージョのブドウ畑は管理・運営されてきた。
シャトー内に残る巨大な人力式の圧搾機などから醸造施設としての姿を偲ぶことができる。
フランス革命以後は修道院の手から離れ、現在では80余人に分割所有されているようだ。
その最大の面積を所有しているのが、シャトー・ド・ラ・トゥールである。