「社長の終わり方」を意識する

「遺産分割の方法であるとか、税金の制度がどうであるとか、M&Aをするにはというようなことばかりに目が行きがちですが、社長が抱えている問題はそうしたことの前に心の問題にあるということです」
 
 従業員のことを考えてなかなか決断できないという経営者も多いが、奥村さんの目から見ると、まずは、自分の人生を優先させたほうが良いと思えるケースのほうが多いと言う。

「正直に言えば、従業員と経営者とでは、背負っているものの重さや複雑さは比べ物になりません。そして、売却するにしても廃業するにしても、従業員のほうには、まだ自由があります。転職することもできますし、売却先が肌に合わなければ他を探してもいいわけです」

 そう言い、続けた。

「経営者の心情は、いろいろなものが関わるので、すべてのバランスを取ろうとすると進まなくなります。ですから決断する時に一番大事なのは、個人の価値観で進めることです。たとえば、自分の考える終わりの美学、哲学、価値観から導き出すのが良いと思います。とくに中小企業の社長の場合、自分の価値観よりも一般的にどうなのか? 周りから見たらどうなのか? を気にしすぎる側面があります。多分に、そうした視点で経営してきたからだと思いますが、自分のことを後回しにしすぎです」

 だからこそ、事業承継については早めに備えをし、経営者が胸の内を整理しておくことが必要なのだ。昨今は、公的機関や金融機関、不動産コンサルティング会社などが相談窓口を置いているケースも多い。奥村さんのような事業承継に特化した専門家もいる。まずは相談から始めるのもいいだろう。

 事業承継もいろいろ姿を変えてきた。そのなかで経営者の選択肢が広がったことは間違いない。そして、どの道筋を選ぶかはすべて経営者の個々の内にあることなのだ。選択肢が増えること。それは、より経営者に決断力が求められる世の中であるということだろう。