事業承継はこれからの大きな課題となるだろう。
なかでも後継者不在は特筆すべき問題となっており、帝国データバンクが2017年に発表した『2017年 後継者問題に関する企業の実態調査』によると、国内企業の3分の2にあたる66.5%が該当するという。にもかかわらず、「この問題に向き合っている経営者は少ない」と指摘するのは司法書士で事業承継デザイナーを務める奥村聡さんだ。
事件は事業を引き継いで2年目に起こった・・・
50歳で印刷企業を経営する女社長であった佐藤さん(仮名)。
急死した50代の夫の事業を引き継ぎいだ。幸い、夫が残した遺産もあり、それを一人娘と分割して相続。その娘も大学を卒業し、大手上場企業に就職が決まる。あとは道半ばで倒れた夫のために事業を軌道に乗せよう――佐藤さんは、そう奮闘していた。
しかし現実は甘くない。
ネットやコンビニで気軽に印刷ができる昨今。経営は日に日に苦しくなっていった。
夫が経営していた当時からの数名の従業員には、「申し訳ない」と思いながら、徐々に辞めてもらうしかなかった。
それでも資金繰りに困ると、サラ金にまで手を出した。
いつかは負債を返せる――その思いもむなしく、事業を引き継いで2年、佐藤さんは事業を閉じるという選択をした。
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「佐藤さんが私のところに相談にきたのは、このタイミングでした」
事業承継デザイナーとして全国を飛び回る司法書士の奥村聡さんは悔しそうに言った。「事業を閉じる」――それ以上の悲劇が佐藤さん一家には待ち受けていたのだ。
「このときのケースでは、社長が亡くなった時点で奥さんと娘さんで遺産相続をしていて、不動産を持ち合ったりもしていました。私のところに来た時点では、これ以上債権者に迷惑がかけられない、会社をやめたいというのが相談内容でした。そして、その時に初めて娘さんも連帯保証している事実がわかったのです」
「残念ながら・・・」奥村さんは続ける。
「佐藤さんも、有名な上場企業に入社したばかりの娘さんも、結局は自己破産するしかありませんでした」
実はこうしたケースは多いという。
「中小企業の社長の場合、公私の両面で経営にかかわっている場合がほとんどだということを忘れてはいけません。そして事業承継したあと、何年かして経営状況が悪化したときに、いろいろな相続問題が起きることが少なくないのです」