AI(人工知能)という言葉を聞く機会が膨大に増えた。その結果、AIの活用が具体化し、4、5年前までは想像の域にしか思えなかったこともあらゆるシーンで現実となっている。

 こうした急速なテクノロジーの進化により、私たちの生活が激変しているのは、誰もが認めるところだろう。

 企業側に視点を移せば、もっとも危機感を持っているのが大企業だろう。事業が成熟化するなか、それを超える効率化、スピードが必要となってきている。「イノベーション」の重要性が高まっているわけだ。

 そこで「出島戦略」を採用する企業が増えつつある。出島戦略とは、江戸時代に西洋に対する唯一の貿易窓口として築造された、長崎県の出島をなぞらえた言葉だ。

 この「出島戦略」について、ニッセイ基礎研究所の中村さんに話を聞いた。

オープンイノベーションの手段として拡がる「出島戦略」

 遡ると「出島戦略」は、2012年頃から有識者によって提唱され始め、日本の大企業がオープンイノベーション(「大企業とベンチャー企業」など既存の枠組みを超え知見を共有し、新たな技術や製品を開発すること)を実現するための一つの手法となっている。

「自前主義で強みを築いてきた日本企業ですが、時代のスピードについていけなくなるという危機感が高まってきました。特にこの4、5年はそれがみて取れます。そこにあるのは製品ライフサイクルの短期化、消費者の好みの多様化、技術の発展による競争の激化などです。そこでオープンイノベーションの必要性が高まった。

 その一つの手段として、出島戦略が注目を浴びています。既存の組織や枠組みのもとでは、革新的なイノベーションを起こしづらいという課題意識のもと、イノベーション拠点として本社から切り離した『出島』組織を作って、迅速で大胆な取り組みを進めていこうという試みです」

 ニッセイ基礎研究所の中村さんはそう言い、こう続ける。

「最近では、オープンイノベーションを掲げて新しい事業の創出を目指す研究組織やベンチャー投資を行うコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)などの設立も、出島戦略の一環として増えてきました」