アベノミクスで盛り上がる経済市況が後押し

「出島戦略」が提唱されて以降、多くの企業がこれを採用し、特にベンチャーとの連携を増やすに至ったのは、経済環境の影響もある。

「2000年前後に大手電機メーカーでCVCに取り組む事例などもありましたが、本格的な動きにはなりませんでした。その後2008年9月の米リーマン・ブラザーズ破綻を機に、世界的な金融危機が発生したことは周知のとおりです。株価は大きく下落、景気も大きく後退しました。当然ですが、東証マザーズ等の日本の新興株式市場も下落し、その後しばらく低迷が続きました。2007年には、100社以上あった新規上場も、リーマンショック後に大きく減少したのです」 

 世界で戦えるような力のあるベンチャーが多くなかったことに加え、2006年にはライブドアショック(ライブドアが証券取引法違反の容疑で強制捜査を受けたことから始まった株価の暴落)などもあり、大企業側からするとベンチャーへの期待もそれほど高くなかったと言える。

 また、大企業にしてもリーマンショックのあとであり、なかなかベンチャーに投資をしようという機運にはなかったことは想像に難くない。

 それが、2012年末の第2次安倍内閣発足を機に、2013年4月の日銀による量的・質的金融緩和の導入によって、状況は一変する。

 いわゆるアベノミクスによって、株価は大きく上昇。そうした景況感の改善もあり、大企業の経営環境も改善した。同じくマザーズ指数等の新興株式市場が大きく上昇し「ベンチャー企業を取り巻く環境も激変した」と中村さんは言う。

「ここ3年くらいで、ベンチャーへの投資がさらに加速しています。1千億円規模だった全体の投資額も、3千~4千億円規模になっています。とりわけ、大企業の投資が伸びています。環境が改善しベンチャーが育ってきた中、大企業がベンチャー投資に前のめりになってきたのは間違いありません」

 こうして「出島戦略」への模索が、本格化してきたのが現在と言える。