経営者は万が一のときのケアを

「特に昨今強く感じているのが、佐藤さんのケースのような経営者である社長が急死する、もしくは不測の事態で動けなくなくなったときの準備の必要性です。事業承継というと後継者不在問題がよく挙げられ、急死問題はあまり指摘されませんが多発している印象があります。社長が突然亡くなったときのケアができていない。ほとんどの中小企業がそうだろうと思いますが、そのことが悲劇の上にさらに悲劇を生むケースが少なくないのです」

 この準備を怠ると、本来なら事業自体を残せたかもしれないのに、もはや倒産という選択肢しか持ち得なくなり、無関係だった家族が破産せざるを得ない、そんな最悪のケースに直面する可能性が大きくなっていく。

「小さい会社の場合、従業員も家族も何も言われていないケースがほとんどです。従業員からは給料が払われないがどうすればいいか、という相談を受けたこともありますし、わけも分からず奥さんが駆り出されて、挙句に借金を背負わされて破産せざるを得ないケースなどもありました」

事業承継は経営者のマインドがすべて

 ただし、現実にはその「備え」こそが難しい。

「そうは言っても、元気なうちに事業承継の決断をすぐに下せる経営者はなかなかいません。一昔前は息子に絶対継がせたいという経営者が多かったと思うのですが、今は価値観的にも自分の好きなことをさせてあげたいと考える社長(親)も多いようです。中小企業の場合、経営者の一存で物事を決めてきたことも多いでしょう。事業承継の問題も、答えは社長の心のなかにだけあるいうのが結論です。最終的には、社長がどうしたいのかというマインドの問題が大きいわけですね。周りにはいろいろ言う人がいるかもしれませんが、なかなか決断できない理由はそこではありません。分析していくと結局は自分の中にある考えがまとまらない、整理できていないから決定できないというケースがほとんどです」

 事業承継で一番重要なのは経営者のマインドの問題になる。奥村さんは「そこが一番軽視されていて、見落としがちだ」と指摘する。なかなか前に進まない、一度進んだのにもとに戻るようなケースの場合、結局は、社長のなかでしっくりいっていないという理由がほとんどなのだ。

 次回はそうしたマインドを乗り越えた事例(増える廃業、「社長の終わり方」が問われる時代)を紹介する。