9月19日、理化学研究所がNTTやNEC、東芝などと共同で次世代の高速計算機である「量子コンピューター」の開発に乗り出すと報じられた。研究は文部科学省の事業として実施され、年間約8億円規模のプロジェクトとなる予定だ。

 IBMやGoogleが積極的に投資を行ない、開発を進めていることでも知られる量子コンピューター。スーパーコンピューターにも答えが出せないような問題も一瞬で解いてしまうとされ、かつては実現性に乏しい「夢の技術」とされていたが、今や実用化直前と言われるまでに研究が進み、開発競争も激化する一方だ。

 様々な企業や研究機関が一丸となって実用化を急ぐ量子コンピューターとは一体どんな技術なのだろうか。

量子コンピューターとは

 量子コンピューターとは、簡単に言えば「スーパーコンピューターを大幅に上回る処理速度を持つ、次世代のコンピューター」のことだ。量子力学という、従来のコンピューターとは全く違う原理を採用することで、圧倒的な情報処理能力を持つ。

 私たちが知る通常のコンピューターは「ビット」という単位を用いて演算を行なうが、量子コンピューターは「量子ビット」という量子力学上の単位を使う。情報を扱う際、ビットでは「0と1のどちらの状態にあるのか」を基礎とするが、量子ビットでは量子力学特有の「重ね合わせ」という概念を用いる。これにより、複数の計算を同時に進めることができるのだ。

 「0であり、1でもある」という量子の性質を活用することで、従来のスーパーコンピューターでは何年もかかる計算を一瞬で終わらせることができる。

 スーパーコンピューターをはじめとする従来型コンピューターは、技術革新の限界が近付いている。1年半でコンピューターの性能が2倍になっていく「ムーアの法則」も近く通用しなくなると言われる今、根本から異なる原理、異なるハードウェアで動く量子コンピューターに期待が集まっているのだ。

 さらに、量子コンピューターは従来型コンピューターに比べて圧倒的に低コストで運用できると言われており、エネルギー問題の観点からも注目されている。事実、後述の「D-Wave Systems」が開発した量子コンピューターは、現在のスーパーコンピューターの100分の1の電力で稼働させられるという。並べると良いことづくめのようにも思えるが、現状は従来型のように何でもこなせるわけではない。

 量子コンピューターは、大別すると「量子ゲート」モデルと呼ばれる汎用タイプと「量子イジング」モデルと呼ばれるタイプの2種類がある。現在のスーパーコンピューターの上位互換と言える「万能選手」は量子ゲート型であり、古くから量子コンピューターとして研究されてきたのもこちらだ。実用化が切望されているが、技術的な問題をクリアして実用化されるにはもう少しかかるだろう。

 ちなみに量子コンピューターと言えば、クレジットカード等の情報保護等に使われている「暗号化技術の解除」を簡単にできるもの、というイメージを持っている読者もいるかもしれないが、それができるとされるのも量子ゲート型だ。

 一方、量子イジングモデルの中でも数種類あるうち「量子アニーリング型」と呼ばれる量子コンピューターは、用途は絞られるものの2011年にカナダのベンチャー企業、D-Wave Systemsによって既に商用化されている。こちらについて詳しく見てみよう。