渡部元東部方面総監や陸海空の将官OBとともに、4年前米国の戦略予算評価センター(CSBA)や 国防大学(NDU)、海軍大学(NWC)を訪問し議論した時は、確かに国家の戦略・作戦を考えている人たちとはこのような人たちだと感動したものだ。

 そこでは若い大学生のインターンが我々の議論を興味深く聞いていたが、このようにして戦略家を育てているのだと感心させられたものだ。

 その中心にあるのがCSBAであり、ランド研究所もCSBAの考え方を基本として米軍の戦略・戦術や勝ち目と考える新装備について研究している。

 海軍大学で陸自の地対艦ミサイル(SSM)や防空ミサイル(SAM)を配置する南西諸島防衛を高く評価し、海軍戦略と結びつけたトシ・ヨシハラ氏は、CSBAに転職している。

 そこで作られた改良エアシーバトル(ASB)と相殺戦略(オフセットストラテジー、OSS)こそが、米国の軍事戦略・戦術の骨幹である。

 しかし、「空母は敵に発見されやすく撃破されやすい」「宇宙ももはや米国にとって聖域ではない」など、なぜかその前提となった厳しい戦略環境の認識については、不都合な事実として日本の防衛省や外務省、財務省などでは語られることがない。海空重視論の邪魔になるからだろう。

 今最も進んでいる米国の中心的な戦略・戦術は、CSBAが構想する改良ASBと、これと一体となったOSSである。

 改良ASBでは、海兵隊を含む海空戦力は中国との開戦当初、グアム以東に一時的に後退するとともに、核戦争になることを抑制するために中国本土への攻撃は控える。

 そして、長距離攻撃と数か月から1年を視野に入れた長期戦(海上封鎖を含む)に勝ち目を求める。また、水中の支配作戦と電子戦などの非物理的手段による盲目化作戦を重視する。

 これに加え、海軍にあった「War at Sea Strategy(WASS、核戦争を回避するため中国本土への攻撃を行わず、主戦場を海洋に限定し、潜水艦を含む軍艦を沈めることで勝利する)」と、これを発展させたと考えられる米海軍のDistributed Lethality(広域に分散し、中国よりも長距離から多数の対艦ミサイル攻撃により艦船を沈める)が、ハリス元太平洋軍司令官が提唱した「船を沈めよ」という考え方に集約されている。

 すなわち、中国本土を直接攻撃しなくても、中国艦隊を撃滅すれば中国の軍事的覇権の意思を断念させることができるとするものだ。米国の軍事戦略の基底をなすものはこれであると断言できる。