この際、対潜水艦戦においても島嶼部の陸自の役割が大きいことを理解しておく必要があろう。
南西諸島は、中国の艦船・航空機にとってチョークポイントと称する隘路を形成しており、島嶼部に陸自部隊を配置し情報収集するだけでも軍事的意味は大きい。
そのうえ、対潜水艦戦において日米が絶対的に有利なのは、単に日米の潜水艦とその乗員の能力が高いだけでなく、水上の護衛艦とP3C、P1などの潜水艦キラー機との連携により中国潜水艦を確実に捕捉し撃破できることにある。
まさに、陸自が島嶼部に沿って海自の航空機や空自の戦闘機のために幅広い安全地帯を提供することによって、海空自の能力が最大限に発揮されるのである。ここにクロスドメインの本質がある。
現防衛大綱でも防衛省は航空優勢および海上優勢を確実に維持するために海空領域の能力強化を謳っているが、現実、中国軍の大増強の前に、海空自の微々たる増強だけでそれを為し得ると合点するのは甘い考えだ。
むしろ生き残っていかに戦い続けられるのかが大きな課題である。
そして、クロスドメインを謳っているのならば、動的で破壊力は大きいものの、確実性に欠ける海空自と、それに戦う土俵を提供し、確実に「船を沈める」作戦に主体的な役割を果たせる陸自を一体化した戦力の増強・近代化を図るのは当然のことであろう。
(3)平時、海空自がミサイルデェフェンス(MD)の主役を担ってきたが、有事のMDについての考察は不十分である。
確かに平時の警戒監視や情報収集は極めて重要であるし、抑止力を発揮するために、海空自が日本海や東シナ海に展開する意味は大きいが、本当の抑止力とは、有事、MDが十分に機能するかどうかにかかっている。
中国有事では、海自艦艇が潜水艦を除いて東シナ海に展開することは困難だろう。なぜなら、すでに中国は東シナ海、南シナ海に海空軍に支援された重層的な対艦ミサイル網を構築し、強化し続けている。
さらに、グレーゾーン事態においても、武力行使の法律もない日本を尻目に、中国海警局を中国の最高軍事機関である中央軍事委員会(主席・習近平国家主席)の統轄下にある武装警察部隊(武警)の指揮下に入れるなど、戦う体制を整えつつあるからだ。
すなわち、MDの一枚看板であるイージス艦の活動は東シナ海では大きく制約され、平時のような前方配置の態勢が困難になるだろう。