「一帯一路」で海洋侵出を重視する中国
6月12日、シンガポールで開催された史上初の「米朝首脳会談」において、ドナルド・トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長は、「朝鮮半島の完全な非核化」と「北朝鮮体制の安全の保証」を謳った包括的な共同声明に署名した。
包括的な共同声明であるがゆえに、「見えないゴール」への困難なスタートを思わせた。
半面、その後のトランプ大統領や主要閣僚の発言から推測されるのは、すでに朝鮮半島問題は大筋解決済みで、昨年12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」や今年1月の「国防戦略」において「力による現状変更勢力」「ライバル強国」と名指して非難した主敵・中国へより大きな目を向けるようになったとも見える。
同上戦略の中で米国は、中国を「軍事力の増強・近代化を追求し、近いうちにインド太平洋地域で覇権を築くことを目指している」とし、「将来的には地球規模での優位を確立し、米国に取って代わろうとしている」と指摘している。
その中国は、米国の指摘どおり、対米「接近阻止・領域拒否(Anti-Access / Area Denial:A2 / AD)」戦略と「一帯一路」(One Belt One Road:OBOR)構想を絡めて一体的に運用し、世界的な覇権を確立しようと狙っている。
A2 / AD戦略では、2020~2040年の間に、西太平洋とインド洋における米軍の支配に終止符を打ち、同地域に中国の地域覇権を確立するのが目標である。
その成果を踏まえつつ、OBOR構想では、一帯(陸路)と一路(海路)の2ルートから経済圏・勢力圏を逐次西に拡大して世界的な覇権確立を目指すもので、長期かつ遠大な構想である。
ところで、中国のOBOR構想における陸路(陸上侵出)と海路(海洋侵出)には、戦略推進上の特性や差異はないのであろうか――。
前述の「A2 / AD」戦略におけるAD(領域拒否)ゾーンに当たる東シナ海と南シナ海(含む周辺地域)は、インド洋と太平洋の接点で、対米戦略とOBOR構想を推進するうえでの基盤であり起点となる要域である。
また、中国が企図する、東アジアに地域覇権を確立するという目標を達成するには、絶対に支配しなければならない要域である。