マレーシアのマハティール首相は
なぜ中国参加の鉄道建設事業を見直したのか
マレーシアで今年5月に実施された選挙で、92歳のマハティール・モハマド元首相が率いる野党連合が、政府の汚職に嫌悪感を抱いた有権者を動かし、予想外の勝利を収めた。
首相の座を奪還したマハティール氏の内政上の優先課題は、それまでのナジブ・ラザク首相と彼が政権与党として率いた統一マレー国民組織(UMNO)の汚職をどう摘発し、腐敗した統治機構をいかに建て直すかである。
同時に外交上の課題として、新首相は、マレーシアで「一帯一路」構想を推進する中国の経済進出が顕著であることに重大な懸念を示した。
これが汚職や腐敗の温床となっているのこともあり、同国とシンガポールを結ぶマレー半島高速鉄道計画や港湾建設、マレー半島南東沖の人工島建設などを含む事業を見直す方針だ。
その方針は、スリランカが陥った中国の「債務の罠」にはまってはならないとの強い危機感から発したものである。
スリランカの親中派ラジャパクサ前政権は、第3の国際港湾として計画したハンバントタ港の厖大な建設費の大半を中国からの融資に頼った。
しかし、財政難のスリランカは「悪夢のような返済」の目途が立たず、その代替措置として港を99年間中国国営企業に貸し出すことを強いられたのである(中国国営企業への貸し出しは、中国という国家への貸し出しと同じことである)。
選挙が終わった直後、マハティール氏は、次のように指摘し、中国に対する姿勢を見直すと明言していた。
「大金を持って現れ、それを貸してやると言うのが中国のやり方だ。・・・だが考えるべきだ。どうやって金を返すのかと」
「一部の国々はプロジェクトに目を奪われ、返済の部分を無視する。そしていつの間にか国の大半を失うのだ」
そして首相に就任した同氏は、中国が「一帯一路」構想の主要事業として受注攻勢をかけていた、同国とシンガポールを結ぶマレー半島高速鉄道計画の廃止を表明した。
また、中国が開発を進める、タイ国境近くから東海岸クアンタン港を経由し、西海岸のクラン港まで全長約690キロを結ぶ東海岸鉄道(ECRL)事業(2017年8月着工)について、中国と契約条件の再交渉を行っていることを明らかにした。