東芝メモリ売却が完了し会見に臨んだ東芝メモリの成毛康雄社長(右)とベインキャピタルの杉本勇次・日本代表(2018年6月4日、写真:AP/アフロ)

 東芝メモリの売却が6月1日に完了した。筆者は、2010年頃から東芝のメモリ事業部は独立すべきと思っていたので、結果的には良かったと言える。

 というのは、東芝内では、多数ある赤字部門の補填に、メモリ事業が稼いだ利益が充てられていたからだ。本来なら、メモリで稼いだ利益は、すべてメモリの投資に使うべきなのだ。そうでなければ、巨額投資を行うサムスン電子に対抗することは不可能だからだ。

 したがって、今回は、2016年末に発覚した原子力事業の巨額損失による債務超過を回避するために売却されるという不幸な経緯はあったけれど、メモリ事業が独立できたことは良かったことだと考えている。

 しかし、今回の売却完了には、不可解な点がある。なぜ、中国が独占禁止法の審査に許可を出したかということである。実は筆者は、中国で独禁法違反との判断が下され、東芝メモリの売却が頓挫し、メモリ事業を売らない「プランB」に移行すると予想していた。本稿では、まず、その根拠について詳述する。

 現実は、筆者の悪い予感は的中せず、東芝メモリの売却は完了した。独立できたことは良いことだが、今後、東芝メモリは、解決しなければならない問題がある。

 第1に、東芝メモリを買収した米ベインキャピタル率いる日米韓連合は、烏合の衆である。それゆえ、迅速で果断な経営判断が下せるのか不安がある。第2に、昨年(2017年)の売却騒動の間に、3次元NANDフラッシュメモリでトップを走るサムスン電子の背中は、さらに遠のいた。果たして、東芝メモリは技術的にもビジネスでも、サムスン電子に追いつき追い越すことができるのだろうか。本稿では、これらの問題についても詳細を論じる。

米中ハイテク貿易摩擦

 筆者が、中国が独禁法の審査を許可しないだろうと予想していた根拠を、図1を用いて論じる。一言でいえば、米中がハイテク貿易摩擦を起こしており、米国が中国に行った制裁に対抗する報復処置として、中国が東芝メモリの売却を許可しないのではないかと思ったのだ。

図1 米中ハイテク貿易摩擦