(文:麻木 久仁子)
NHKに「100分de名著」という長寿番組がある。「趣味は読書です」などというからには、古今東西の名著も一通り知っておかなくては格好がつかない。とはいえ名著、とくに古典などは10代にでも読んでおかないと、大人になってしまえばなかなか手を伸ばせないものだ。かくして心密かに「あれも、これも読んでいない」というちっぽけなコンプレックスを抱いたりして・・・と、そんな心の隙間を100分で埋めてくれるのだから人気があるのも肯けるというものだ。
さて、そんな人気番組から発展的に生まれたのが「別冊100分de名著 読書の学校シリーズ」である。こちらは“そんな大人”になる前に、中高生の若い人たちに、古典をはじめとした名著を“楽しく!”読んでもらう機会を作るべく、各界の識者があちこちの中学校に実際に赴いて「100分de名著の特別授業」を行うという趣向なのである(放送はなく、授業をまとめた本となっている)。読書好きの著名人が、年の離れた中学生に、それぞれの表現で熱い思いを伝えていくライブ感も面白いシリーズとなっている。池上彰さんが大ブーム真っ只中の『君たちはどう生きるか』について語る授業を皮切りに、中野京子さんの『シンデレラ』、齋藤孝さんの『銀の匙』と続き、今回が出口治明さんの語る『西遊記』である。
出口さんといえば保険会社の創業者として著名な企業家であるときから博覧強記の読書家として知られていたが、同時に若い人材を育てることに熱心であることも知られていた。実際、若い後継者にあっさりと会社の後を譲り、現在は大学の学長に就かれた。若者が大好きで、若者へ多くのことを伝えていきたいという思いを大いに抱いている出口さんが中学生に何を語るのか。また、ファクトやロジックを重んじる出口さんが選んだ課題書が、荒唐無稽が真骨頂の『西遊記』であることも面白く、どんな意図があるのだろうと興味をそそられた。
古典の面白さは「折り紙つき」
出口さんの『西遊記』の授業は、まず、古典を読むことの意義を解くことから始まる。というとちょっと語弊があるかもしれない。出口さん曰く「読書から教訓を得るべきなどという考えは捨てなさい」というところから始まるのだ。読書の“意義”などということ自体が野暮なんだよ、ということか。
“読書をしたら出世の役に立つとか、教訓を得られるとか、そのような考え方はどうか捨ててください。本を何冊か読んだくらいで仕事ができるようになれるとか思っている人に、僕はいつも「人生なめていませんか?」と言っています。そんなことあるはずがないのです”
“僕は、本には二種類しかないと思っています。面白いか、面白くないか”