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(文:鰐部 祥平)

 本書の著者は『帝国を魅せる剣闘士』、『愛欲のローマ史』などの著作や漫画家ヤマザキマリがナビゲータを務めたBSフジの番組『ローマ街道物語』の監修などでも活躍した歴史学者、本村凌二だ。今回の新作は『教養としての「ローマ史」の読み方』。題名だけでは論点がいまひとつピンと来ないかもしれない。その点で少し損をしているように思うのだが、表紙に付いている帯で、佐藤優が本書の論点と意義を見事に言い当てている。帯の文章を引用してみよう。

“ローマ史の中に人間の英知のすべてが詰まっていることがよくわかる。”

 本書ではローマがなぜ帝国を築けたのか。そして、なぜ滅んだのか。この人類史の命題のひとつともいえる問題に、混迷を深める現代の国際情勢などを絡めつつ、見事に描き出した意欲作だ。

“ローマ史に触れるとき、誰もが疑問に感じることが二つあります。
一つは、「なぜ、ローマは帝国になりえたのか」。
もう一つは、「なぜ、ローマ帝国は滅びたのか」です。
ローマがイタリア半島で、小さな都市国家(ポリス)として産声を上げたとき、地中海世界では少なく見積もっても千数百個のもの都市国家が存在していました。(中略)そうした都市国家をすべて飲み込み、大帝国を築き上げたのはローマでした。”

 本書はローマという都市国家の誕生から東ローマ帝国の滅亡までのおおよそ三千年間の期間を四部構成にしている。第一部では国家の誕生から共和政への移行と発展を論ずる。似たような民主政をとり、ローマよりもはるかに先進的な都市国家であったギリシャ(アテネ)と比較しながら、なぜ、ローマが帝国への道を歩み、アテネは政治的混乱に陥っていくのかを検証する。

ローマとギリシャがなぜ異なる結果を生んだか

 なぜ、ローマやギリシャが独裁を嫌い、古代では珍しい民主的な政体を作り上げたのか。著者は理由のひとつとして、ギリシャ、ローマが採用していた「ファランクス」と呼ばれる集団密集隊形による戦闘の技法が関係しているのではと説く。この軍事制度では集団で秩序たち、連携して行動することが求められるために、個人の自由の尊重と全体の利益を重んじる価値観がバランスよく芽生えたのではないかと主張する。