しかし、次はレベル60のハンマーでいいのか、それともレベル85を想定して準備すべきなのか、ボーリング調査結果の評価も一様ではなく、正解が誰にも分からず意見は割れた。

 もちろん、レベル100を想定すれば確実だが、その分、コストも跳ね上がる。レベル70でいいところにレベル85はかけたくない――。

 「過剰な投資は避けたい」という施工業者側の思惑を重々理解しながらも、笠原さんは、確実な機材を準備するよう、厳しく要求し続けた。

 「固さを過小評価し、同じ失敗を繰り返して工期をさらに遅らせるわけにはいかない」という施工監理としての思いからだった。

 とはいえ、「70ではなく85、あるいは100の機材を」と自分が要求することによって、彼らがどれだけの莫大な金額を背負うことになるか考えると胃が痛くなったし、水面から突き出したままの杭を目にすることすら辛かった。

 それでも、笠原さんは毎日、施工業者の担当者と顔を合わせ、徹底的に話をした。

 2カ月後、現場に届いた新しい機材の据え付けを祈るような思いで見守っていた笠原さん。ハンマーが振り下ろされ、川から突き出たままの杭が打ち込まれた瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れてひざから崩れ落ちた。

「笠原流」監理、原点はネパール

 そんな息詰まる日々に笠原さんが折に触れては思い出し、「あの時に比べたら頑張れる」と気持ちを奮い立たせていた案件がある。

 ネパールの一大農産地であるタライ平野と首都カトマンズを結ぶシンズリ道路の建設事業。

難工事で有名なネパール・シンズリ道路

 古くから使われていた幹線道路は2000メートル級のマハバラット山脈を避けるために大きく迂回しているうえ、雨期には地すべりや土砂災害が頻発し、そのたびに通行不能になっていたため、同国にとっては悲願の「第2の動脈」だ。