長尾 趣味を持つことです。自分が本当に興味のあることを始めてみるのがよいと思います。ピアノ、ギター、カラオケ、陶芸、囲碁・将棋、書道、英会話など、探すといろいろな習いごとがあります。

 強いて言えば、手先を使うものがよいでしょう。脳の活性化につながり、将来的に認知症予防にもなります。グループで行うということで、料理教室もよいと思います。コミュニケーションをすることで自然に仲間意識が芽生えます。そして、できれば、ゴルフや体操など、体を動かす「運動系」と組み合わせて、2つ以上行うことをお勧めします。

 あと、地元のスナックに顔を出すのもいいかもしれません。スナックは他愛もない会話を地域の人と交わす場としては最適です。日本の貴重な社会資源だと思います。人と話して交流するのもカラオケをするのも、声を出したり、歌詞を覚えたりして脳トレになります。個人的には国策として、もっとスナックを充実させれば、日本人の健康寿命が延びて、孤独死も減るのではないかと思います。

 声を交わすような関係になったら、連絡先の交換をして、気軽にメールやメッセージを送ってみたらどうでしょうか。あいさつ程度のシンプルな内容でかまいません。日頃からメールやラインで気軽に連絡を取り合うようにしておきます。教室もスナックも、急に来なくなったら、ママさんや他の常連さんが心配して連絡してくれるかもしれません。

 利害関係なく、自分が気にかけている人、自分を気にかけてくれる人とつながる機会を増やすことは、とても大切です。

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 アメリカの心理学者、アブラハム・マズローが唱えた「欲求の5段階説」によると、人間は衣食住の基本的な生活や安全が確保されると、その上の欲求として、「社会的欲求」、つまり、友情や愛情、家族とのコミュニケーションを求めるようになるという。

 ハーバード大学の心理学者ロバート・ウォールディンガー氏のグループが、75年もの長期にわたって追跡調査を行い、幸せになる方法を研究し、発表したことは記憶に新しい。調査結果から分かったのは、人とつながることは健康によい、人間関係の満足度が健康に影響する、いい人間関係は脳を守るということ*8。人間の幸せは富や名声、業績などではない。幸せに長生きする秘訣は、信頼できる人間との交流をストレスなく、楽しむことにある。

*8:TED「人生を幸せにするのは何? 最も長期に渡る幸福の研究から

長尾和宏医師プロフィール

1958年6月生まれ。香川県出身。医療法人社団裕和会理事長、長尾クリニック院長。1984年東京医科大学卒業後、大阪大学第二内科に入局。1986年より大阪大学病院第二内科、市立芦屋病院内科勤務を経て平成7年に、尼崎市に長尾クリニッックを開業し、外来と在宅医療を両立させる。「町全体が私の病棟、自宅は世界最高の特別室」をモットーに、「町医者」として、病院で1000人、在宅で1000人を超える患者を看取ってきた在宅医療のオピニオンリーダー的存在。さらに、日本尊厳死協会副理事という立場から、高齢者の健康、終末期医療、尊厳死・平穏死について啓発活動に取り組み、提言を行っている。毎日ブログを発行する傍ら、複数のメディアで連載を担当、『平穏死10の条件』『抗がん剤10のやめどき』『薬のやめどき』『痛くない死に方』『親の「老い」を受け入れる』など、ベストセラーとなる書籍も多数ある。