夫婦が長年連れ添うのは“生物学的に”無理がある
――熟年離婚はなぜ増えているのでしょうか。
長尾和宏氏(以下、敬称略) 熟年離婚が増えている理由として考えられるのは、高齢化です。昔は人間が結婚し、出産、子育てを行い、役割を終えたら、男性は50代、60代に寿命がきて死んでいくというのが普通でした。
今では、男性も女性も長寿となり、夫の定年後20年以上は生きられるようになりました。女性は男性よりも平均すると7年長く生きるので、例えば妻が3歳年下の場合、子供が成長して夫を看取った後、自由になれる期間が10年あります。これを密かに楽しみにしている妻たちが、実は少なくないのです。
これは決して女性を非難しているのではなく、“生物学的”に仕方がないことかもしれません。女性は男性よりも寿命が長いので、夫の死後、家族や夫の世話から解放され、家庭に縛られない自由な時間を手に入れ、第二の人生を思いっきり楽しみたいという構想がある女性にとって、定年後に夫がずっと家にいることは明らかに想定外なことなのです。
好きで一緒になった人生のパートナーであったとしても、恋愛は一時的なものであり、長年一緒にいると、嫌な一面も見えてきて、性格も考え方も変わってきます。長年一緒にいても、この結婚が正解だったと自信を持って言える人がどのぐらいいるでしょうか。
夫婦関連の本では、2016年に出版された『夫に死んでほしい妻たち』(小林美希著/朝日新書)がベストセラーになり、昨年は「だんなデスノート」という夫の恨みつらみを投稿するウェブサイトが話題になりました。そこには「だんながやっと死んでくれました」「おめでとう! よかったね」というような、ぞっとするようなやりとりが綴られています。
定年後、妻は家で夫と一緒にいる時間が長くなり、蓄積された不満が爆発、ストレスが限界に達し、別れを切り出すというパターンが多いようです。夫の定年後に妻が陥る「主人在宅ストレス症候群(夫源病)」は笑い話でもなんでもなく、イライラ状態がマックスとなり、うつ状態になることもあります。役割を終えた男女が性格の不一致により、婚姻関係を終わらせたいと願うのは、特別なことではないのです。
さらに、高齢者の離婚を後押ししたのが年金制度の改正です。2007年4月以降に離婚する夫婦の場合、結婚期間中に夫が支払った保険料分の厚生年金を夫婦で分配できるようになったことで、経済面の不安もクリアされたことも大きな要因の1つとして挙げられるでしょう。