増えていく高齢者の骨折に対して、どのような医療体制が望まれているのか。

 日本は高齢化社会を迎え、高齢者に対する医療は既に社会問題となっているが、近年、骨粗鬆症を背景とする高齢者骨折の増加も注目されている。

 その中でも、特に大腿骨近位部骨折*1 は、歩行に大きく関わる骨折のため、回復するまでの家族の介護の負担が大きく、さらにはQOL*2や生存率の低下なども大きな問題になっている。さらには、高齢者特有の合併症も多く見られるため、QOLの回復には、骨折を治療する整形外科医だけではなく、他科の専門医や薬剤師、看護師など、多職種にわたるチーム医療による対応が求められている。

 そのような大腿骨近位部骨折に対して、富山市立富山市民病院は2014年から、多職種連携によるアプローチに取り組み、一定の効果が出ているという。これはどのような取り組みで、どのようにして導入されたのだろうか。

 2017年10月28日、東京大学医学部の鉄門記念講堂で開催された「多職種連携アプローチセミナー in東京」(主催:ジョンソン・エンド・ジョンソン)で、富山市立富山市民病院のスタッフが紹介していた取り組みをお届けする。

*1:大腿骨は太ももの中軸となる骨で、大腿骨近位部骨折はその中でも骨盤に近い股関節の部分で起こる骨折。

*2:クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)。「生活の質」「人生の質」とも訳される。疾病の治療や延命のみを目指すのではなく、患者が人間らしく生きがいや幸福感を持って生活できることが求められている。

大腿部近位部骨折を取り巻く現状

 富山市立富山市民病院の副院長で整形外科医の澤口毅氏は、大腿部近位部骨折に関して、医療の現状と課題を語る。

富山市立富山市民病院 整形外科医の澤口毅氏。

「2015~16年辺りは、年間20万件ほど発生すると言われていますが、それが将来予測では25万人、あるいはさらに増えるかもしれません」

 高齢者の人口も増えてきているので、今後はさらに増えるかもしれないという。

 東京都老人総合研究所のデータは、65歳以上では3人に1人が骨粗鬆症で、65歳以上では5人に1人は年に一度転倒を起こしている。70歳以上では、3人に1人。そして、5回から10回程度の転倒で、1回は骨折が起こると言われている。