こうした中、過去の住民移転の経緯からただでさえ厳しい目が注がれるティラワSEZで、万が一、国際水準を満たさない企業活動が認められたり、地域住民の意向がないがしろにされたり、労働者のストライキが起きたりした場合、国内外からかなりの批判が寄せられることは間違いない。
おりしも、機関投資家や金融機関の間で環境(Environment)、社会(Social)、そして企業統治(Governance)の問題にしっかり取り組む企業を評価する「ESG投資」が急拡大しつつある。
ひとたびティラワSEZのブランドに傷がつくと、製品の不買運動や入居企業の信用失墜、株価の低下は避けられない。
さらに、この国自身、2011年のテインセイン政権誕生を機に「ラストフロンティア」と熱狂的にもてはやされていたのも今は昔。
近年は一転して、ラカイン地方に住むイスラム教徒ロヒンギャを巡る問題など、内外メディアから激しい非難を浴びるようになり、「ティラワSEZも二重三重のリスクにさらされている」(菊池さん)のが実情だ。
だからこそ、企業とコミュニティーの共生をこの地で実現し、SEZ全体のレピュテーション(評判)を守る必要がある。失敗は許されない。苦情処理メカニズムは、ことほどさように壮大な挑戦の切り札でもあるのだ。
ティラワモデルの可能性
2015年9月に先行区域(Zone A)が開業し、現在、Zone Bの建設工事も着々と進むティラワSEZ。最大の問題だった電力インフラは、発電所、送電所、送電線のいずれも2017年に完工し、ティラワ港も荷役機器の据付が終了して2018年末には完工が見込まれている。
ヤンゴン市街地との近接性向上が期待される道路の改良工事も間もなく始まる。
「今後は、ティラワの開発効果を外環状道路や東西回廊に沿って拡大していくことも考えたい」と語る唐澤所長。