「目の前のことに集中できない、すぐに想像のお花畑に遊びに出かけてしまう」ことが成績絶不調の原因だった。とはいえ、それは今に始まったことではなく、幼い頃からの傾向であるらしい。そこでお母さんに来てもらって、小さい頃からの様子を聞いた。

 すると、その子が極端な「おばあちゃん子」であったことが判明した。この子が生まれてから5才くらいまで、食事も全部おばあちゃんが口元まで運んでやり、着替えも何もかもおばあちゃんが先回りして世話していたらしい。自分一人でやろうとしても、「うまくできないでしょ、おばあちゃんがやったげる」。

 そのうち、自分で何をしようと思っても全部先回りして準備されてしまうので、自分から何かをしようということを諦めるようになり、その代償として「想像のお花畑」に出かけるようになったらしい。学習に集中できないのは、自分で何事かを成し遂げるという自己効力感を奪われたためだった。典型的な「おばあちゃん子は三文安い」パターンだった。

 この子が自己効力感を取り戻すには、「いま、ここ」に意識を保つ必要がある。そこで「リハビリ」を優先することにした。「タマシイ飛ばし」が起きたら机をバンと叩き、大声で「ほら、またタマシイが飛んでったぞ!」とビックリさせる。それを何度も何度も繰り返した。

 これまではタマシイを飛ばしても(意識があらぬ方向に飛んでいったとしても)、誰もとがめることはなかった。しかし、そればかり集中して注意されるようになって、しかもビックリさせられるものだから、次第にタマシイが飛ぶまでの時間が長くなり、「いま、ここ」に集中できるようになってきた。

 すると、小学校の内容はあっという間に終えた。「いま、ここ」に意識を集中させると、自分でもあやふやだと思っていた内容を着実に理解ができて、自己効力感が得られるようになり、楽しくなってきた。するとタマシイは自然と、「おでかけ」しなくなった。

 大きな峠は因数分解。これが全く分からない。ワンワン泣いた。高校生なのに中学の内容を理解できないことが悔しくて。しかしこれは大きな成長の証し。「できなくて悔しい」から泣くなんて、彼はこれまでの人生でなかった。自己効力感が得られることの楽しさに目覚めたから悔しいのだ。

 もう、できないからといってタマシイを飛ばすことのなくなったその子は、因数分解にかじりついた。そしてとうとう克服すると、その後はウソのように中学校の内容をスルスルと終えた。