父親の言葉を糧にグループを成長、次代は世界戦略
カミチクグループの創業者で現会長である上村昌志氏は、子供のころに聞かされ続けた父親の言葉が忘れられないと話す。
「親父は農業に誇りを持っていて、人の命の源をつくる仕事だと常々話していました。でも、儲かりません。そこで、兄弟3人で力を合わせて俺の夢を叶えてくれと焼酎を飲みながらよく話していたんです。いわく、長男坊は牛を飼え、次男坊は兄貴が作った牛をしっかり売れ、三男坊はそのお肉に付加価値をつけるために外食産業をやれ、と。これはまさに今の6次化産業の話ですよね。今から55年前ですよ」
6次化産業のメリットは、履歴がはっきりしていることだと話す上村氏。安心安全の裏付けが明確になり、仕事に対しての意識も高まるという。
「和牛の仔牛価格は高騰しています。生産者が少ないからなんですね。高い仔牛からできる牛肉はもちろん高くなります。私たちは仔牛づくりからやっているので中間マージンなどのコストを圧縮できます。今まで国産牛肉の6次化は、様々な企業がチャンレジしてきましたが、なかなか出来上がらなかった。ここまで形になっているのは日本でカミチクだけではないでしょうか」
コスト面でも、メリットはあるというわけだ。しかし、ここまでの体制を築き上げるまでには試練も多くあったと振り返る。その最大の難局は、2001年に日本を襲ったBSE問題だった。
「2001年9月10日です。9.11の前日だから忘れようにも忘れられません。BSEの話題が日本で出た瞬間に、これはまずい。肉が売れなくなると慌てました。状況を打破するためには、鹿児島で牛を見ていても仕方がないと、営業を止めて私は東京へ飛びました。そうすると、市場で信じられない値段で取引されているんですよ。普段なら1500円くらいするものが100円とかで。それでも誰も競り落とさない。恐怖を覚えました。諦めきれない私は、百貨店などいくつかのお店をぐるぐる見て回りました。そうしたら不思議なことを発見したんです。大手百貨店では、BSE問題といわれているのに、牛肉が普通よりちょっと安いくらいの値段で売られていて、しかもそれをお客様が買われている」
上村氏は、そこでブランドの信頼感を目の当たりにしたという。市場では破格の値段で取引されている牛肉を、普段と同じ売値で売れるなら、得られる利益は尋常ではない。それをなしえているのは、こうした百貨店の「信頼力」にあるのだと痛感する。
