とはいえ、1次産業者が突然、2次、3次の産業事業を行うのは簡単ではない。長年、食品加工や流通販売しているプロも多数存在しているなかで、素人の1次産業者が参入するのは難しい。

 まず2次においては、商品を企画する力が求められる。魅力のない商品を作っても、買ってくれる人はいない。マーケティングやブランディングのスキルが必要となるが、多くの1次産業者には足りていない。

 3次については、市場への販路を持っていないという「そもそも論」が強い。ネットなどで直販するのにも、やはりマーケティングやブランディング、客とのコミュニケーションなどが求められる。結果、道の駅などで売られる程度ということになってしまいがちだ。

 仮に成功したとしても、実は大きな課題がある。1次産業がおろそかになるのだ。筆者の知る個人規模の6次産業者も自社商品が話題になっているものの、肝心の1次産業がおろそかになっているというケースもある。そうなる気持ちも分かる。1次産業は、労働時間が長い上、気象条件に左右されることも多く利益率も低い。だからこそ国も支援するのだが、それにより1次産業者が骨抜きになってしまうケースがあるのだ。

世界が求める「牛肉」だからこそハードルも高い

 6次産業が実現できれば、多くの生産者は経済的にもゆとりができるはずなのだが、なかなか難しい。そんな中でも、とりわけ難しいのが牛肉の世界だ。

 牛肉はそもそも現金化までのリードタイムが長い。およそ28カ月かかるといわれている。農作物なら1年だが、2年以上かかるのだ。その上、生き物を育てるという観点から、多大な設備投資や感染病などのリスク管理も求められる。これは畜産すべてにいえることでもあり、リスクの大きさは「畜産 > 水産 > 農業」ともいわれている。

 牛肉は世界中の人が食べるもので、市場規模は大きいが、そのぶん規制なども多い。BSE問題や口蹄疫問題など、様々な問題を常に予防し、解決をしていく必要もある。食料品の中でも牛肉の取り扱いについては日本に限らず各国ともハードルは非常に高い。

 また、種牛なども含めてビジネスを考えていくと、実際にその種牛の精子で牛が育つ様子を観察しないと、その種牛の優劣がつけられない。その期間は実に5年程度かかるともいわれている。