NPOや社会福祉法人が農業に進出したり、農家が障害者を雇って農作業を行ったりする「農福連携」が進んでいる。社会福祉法人の中には、認定農業者となったり、6次産業化を進めたりして、収益を上げている事業所もある。国も「農福連携マルシェ」やシンポジウムを開催するほか、助成金制度を創設するなど後押ししている。
なぜ、いま「農福連携」が広がりつつあるのか。背景を探りつつ、具体的な事例をみてみたい。
「農」と「福」が連携することで互いの課題を解決
農福連携が盛んになってきている背景として、まず農業側では、農家の高齢化で労働力が減少し、耕作放棄地が増加していることが挙げられる。2015年度の農林水産省「農林業センサス」によると、農業就業人口は約209万7000人。1985年時点から6割以上減少している。農家の平均年齢は66.4歳となり高齢化が進んでいる。耕作放棄地も約42万3064ヘクタールで、埼玉県とほぼ同面積。1995年時点の2倍近くに増えている。このような背景から、新たな担い手が必要とされているのだ。
一方、福祉側の背景としては、賃金の引き上げが課題となっている。企業に雇用されれば最低賃金以上を受け取ることができるが、企業に雇用されない障害者は「就労継続支援」という訓練を受けることになる。雇用契約を結び利用する「A型」と、雇用契約を結ばないで利用する「B型」に分けられるが、2014年度の1カ月分の平均賃金を見ると、A型で6万6412円、B型で1万4838円。これに障害者に支給される障害者年金を加えても、なお生活していくには苦しいのが実態だ。しかし、農業に従事することで、実際に賃金がアップする例が数多く現れはじめた。
つまり、「農」と「福」が連携することで互いの課題を解決する「Win-Winの関係」を築ける可能性があるのだ。
国の支援は本格化
国の支援も本格化している。農林水産省では2016年3月に「農福連携推進フォーラム」を開催。先進事例の紹介を交えながら、農福連携を行っている団体との意見交換を行った。5月には厚生労働省と農林水産省が東京・有楽町で「農福連携マルシェ」を開催。障害者施設の農業の紹介や生鮮野菜などの展示・即売会を行った。
助成金制度も整ってきている。厚生労働省は2016年度から「農福連携による障害者の就農促進事業」として1億1000万円を計上。農業技術や6次産業化で指導や助言ができる専門家の派遣、農産物や加工品のマルシェの開催に対し経費を補助する。