ミツバチが大量に消滅――。この話題が取り上げられて久しい。今夏以降も、7月に農林水産省が公表した「蜜蜂被害事例調査」の結果を受け、全国紙が「大量死 ミツバチから農薬」(朝日新聞)「水稲でのカメムシ防除がミツバチに被害」(産経新聞)などと報じた。
ミツバチは人間に恩恵を与えてくれる。特に食との関わりは深い。はちみつを作ってくれるし、農作物が実をつけるのに必要な花粉を運んでくれる。これらの恩恵に“効率よく”授かろうと、人間はミツバチを飼育する「養蜂」の技術も確立した。もしミツバチが全くいなくなってしまったら、私たちへの影響はいかばかりのものか・・・。
ミツバチの大量消滅を巡っては「農薬が原因。農薬の禁止を」といった構図で伝えられることが多い。だが、ことはそんなに単純なのだろうか。農薬の使用を禁止すれば、問題解決となるのだろうか。
そもそも、ミツバチから恩恵を受けている割には、ミツバチのこと、養蜂のこと、はちみつなどの食のことについて、無知であることに気づく。これを機に、人とミツバチの関わりに関心を持つことも、ミツバチの将来にとってプラスになるのではないか。
そんなことを考えて、今回は「ミツバチがもたらすもの」をテーマとした。前篇では、日本における養蜂やその産物であるはちみつの歴史を追ってみたい。そして後篇では、いま騒がれているミツバチ大量消滅をどう考えるべきか、そして何ができるのかを、現代のミツバチの研究者に聞くことにする。
日本で初めての養蜂の記述は“失敗”の記録
日本には古来、ニホンミツバチという野生種が生息していた。アジア南西部原産とされるトウヨウミツバチの一亜種だ。長崎県の壱岐では、中新世(2400〜2500万年前)中期のものとされるミツバチの化石が見つかっている。
それからはるか遅れて、日本に出現した私たち人間の祖先がミツバチと出会った。日本人とミツバチの関わり合いの始まりだ。歴史学者の故・塚本学は随筆「日本人のニホンミツバチ観」で、「食材を求めて山野の動植物に鋭い目を向けたひとびとが見すごすわけはなく、蜂蜜の採取は縄文時代以前にはじまっていたろう」と述べている。