ロシア検事総長も登場
この先は、ジュニアの意図したように物事は進まなかった。メールにあるように、会合に参加したのはトランプ側3名とロシア側2名のはずだった。ところが、『NBCニュース』は女性弁護士のナタリア・べセルニツカヤが当日、ロシア出身のアメリカ人ロビイストを伴ってきた、という大スクープを報じた。
これは首都ワシントンに住むリナット・アクメトシンで、ソ連軍の元ベテラン、それもKGB(ソ連国家保安委員会)の対敵諜報部隊にいた頃には、軍内部のスパイを探す任務を負っていた人物というのである。米国へ渡ってきたのは1994年。今では米国籍を持ち、主にロシア人クライアントのために働くロビイストとして、ワシントンでは知られた顔であるという。そのロビイストが友人のべセルニツカヤ弁護士に頼まれて、その日、列席したのだ。
さらに驚いたのは、「自分は民間の弁護士だ」と主張していたべセルニツカヤ弁護士が、実は、ロシア検事総長ユーリ・チャイカと連絡を取り、米国の対ロシア制裁とそれを支援したアメリカ人に対抗するキャンペーンを行なってきたと、『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報道したのである(7月15日)。
トランプ・ジュニアの公開したメールにある「検事クラウン」とは、ユーリ・チャイカのことである。彼こそ、政府に立ち向かう反体制派やジャーナリストを逮捕し拷問にかけてきたといわれる、恐るべき検事総長である。
そのうえ、この会合にはもう2人、列席者があった。ロシア語の通訳のほかに、「エミン」の広報担当ロブ・ゴールドストーンも出席していたのである。
こうして8名が顔を並べた会合で、実際に何が話され、どんな進展があったのか。ジュニアが主張するように、ただの「馬鹿げたナンセンス」だったのか、あるいは、トランプ陣営とロシアが共謀して選挙戦を勝ち抜いていく大きな第1歩であったのか。スキャンダルはとどまるところを知らない。

青木 冨貴子
(あおき・ふきこ)ジャーナリスト。1948(昭和23)年、東京生まれ。フリージャーナリスト。84年に渡米、「ニューズウィーク日本版」ニューヨーク支局長を3年間務める。著書に『目撃 アメリカ崩壊』『ライカでグッドバイ―カメラマン沢田教一が撃たれた日』『731―石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』『昭和天皇とワシントンを結んだ男』『GHQと戦った女 沢田美喜』など。 夫は作家のピート・ハミル氏。
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