「今は、お作りいただける職人さんたちの数も増え、状況的にはかなり落ち着いてきました」とほほ笑む矢島さん。この事業を構想するに至った経緯を次のように語る。
「『~年の伝統を誇る××焼』と言っても、多くの場合、今の若い方々は知りません。『昔からある』というだけの“産地ブランディング”にはもう無理があると思ったのです。でも、ずっとその土地にいる方々には、なかなかそのことが分からない。だからこそ、私のような“外の視点”が必要だと考えたのです。
“伝統”という切り口では今の若い方々はあまり強い興味を持ちませんが、“子ども”という切り口であれば、興味を持つ方が増えるのではないかと私は考えました」
そうだとしても、なぜあえて“子ども”なのか?
「幼少期に体験したことは、人生を通じ記憶として残るものです。ですから、日本の子どもたちが、感性が豊かに育まれる0から6歳の時期に伝統産業に触れることで、いずれ彼ら彼女らが伝統産業の商品を自ら手にする時が来ると私は思います。それが、長い目で見た時に、日本の伝統産業を発展させる最も有力な方法だと考えます」
この事業は数々の受賞の栄誉に浴しているが、その要因として注目されるのが、次世代に対する、こうした教育的側面である。
しかし、もう1つとても重要なことがある。それは、伝統産業を担う職人さんたちを育んでいる点だ。
日本の伝統産業の衰微が叫ばれて久しいが、市場ニーズが減退し、仕事が減れば、修業を積んだ職人といえども、勘は鈍り、技量は低下する。ただ単に、職人数の減少や高齢化が問題なのではなく、次世代に伝えるべき伝統技術それ自体が失われてしまうことが問題なのである。