なぜ、一個の人間としては項羽よりずっと劣った劉邦が、最終的に項羽に勝ったのだろう? ボトムアップだったからだ。たくさんの部下を自分の五感として活用し、部下の意見をよく聞いて物事を決していたからだ。部下は劉邦のもとでは大変なやりがいを感じることができた。

 劉邦より巧みに大軍を御する韓信が、「将に将たり(リーダーたちのリーダー)」と劉邦を評価し、部下として付き従ったのも、劉邦の「聴く力」がもたらしたものだ。だから劉邦は、個人としては優秀でなくても、「仲間」となら、超強力で超優秀だったのだ。

 漢帝国が成立し、誰が一番手柄を立てたか表彰することになったとき、劉邦が「第一の勲功」として評価したのは、命をかけて戦った将軍ではなく、なんと、後方から食料や物資を供給する黒子役に徹した、蕭何だった。一番目立たない部署にいて、地道に支援した活動を評価した。こんな評価ができるのは、いろんな意見に耳を傾けるボトムアップ型のリーダーだったからだ。

 リーダーシップとは、ボトムアップとの組み合わせだと考えた方がよいだろう。トップとボトムが相互に情報をやり取りするフィードバックが働くから、リーダーシップは機能する。

 スーパーコンピューターの開発の歴史では、面白いことが途中で起きている。ある時代まではスーパーコンピューター専用の特殊で高額な中央演算装置を用いていたのに、ある研究者が、ありふれたパソコン用の汎用品を並列回路で結びつけると、スーパーコンピューターと同等の計算速度を発揮できることを示し、それ以来、スーパーコンピューターは並列回路で開発することが普通になったようだ。

 この事からリーダーシップを捉え直すと、優れたリーダーシップは、自らの脳だけでなく、部下の脳とも並列回路でつなぎ、一個の巨大な脳のようにして判断することができるはずだ。

 部下を自らの五感とし、脳ともする。リーダーシップとは、それを促す音頭取りだととらえた方がよいのかもしれない。