さまざまな意見に傾聴し、判断とは違う意見の人たちにも「今回は協力してほしい」と言えるリーダーは、強力で大勢の応援団を得るから、利害や派閥を理由に反対する勢力があっても、突破できる。それは「ボトムアップ」だからだ。ボトムアップで味方がたくさんいるからこそ、反対意見にも物怖じせずにいられるのだろう。

 当たり前のことだが、正確な判断をするにはできる限り多くの情報、意見を聞いた方がよい。脳が、五感の伝える情報をもとに外界の様子を知り、どう行動すべきかを考えるのと同じように。組織のリーダーは、目であり、耳であり、触覚であり、味覚でもある「部下」からの意見を吸い上げ、総合的に判断することが、誤った判断をしない基礎条件になる。

 部下の意見も聞かずに判断するのは、情報を一切無視して思い込みだけで決めてしまうのと同じ危険な行為だ。「机上の空論」よりひどい「頭中の妄想」といってもよい。

 営業は営業現場の情報を持つ。製造は製造現場の、開発は開発現場の、事務は事務の現場の情報を持っている。リーダーは、部下の意見を「五感」として捉え、情報を吸い上げ、判断材料にすべきだろう。五感が伝える情報を無視する脳があったとしたら、どれだけ滑稽なことか、想像してみるとよい。せっかく部下という「五感」があるなら、それを生かさない手はない。

項羽と劉邦

 どうも、「強いリーダーシップ」に憧れるのは、自分が誰よりも賢く、誰よりも勇敢で、誰よりも強いという自画像に酔いしれたいという欲求がなせるものなのかもしれない。

 そういう意味では、中国古代の項羽に似ている。項羽は自らが非常に賢く、勇敢で、強かった。だから勢いがある間は、「おこぼれにあずかれるかも」と考えた人間が多数集まった。しかし、弱り目に祟り目になると次々に人が離れていき、ついに四面楚歌と呼ばれるような状況に至った。

 ボトムアップ型のリーダーは、そうではない。項羽のライバル、劉邦が典型的だ。劉邦は粗野で、賢いとはとても言えず、すぐに逃げるし、強くもなかった。実際、戦えば結構負けていた。しかし不思議なレジリエンス(しぶとさ)があって復活、ついに項羽を倒して、漢帝国を建設した。