●中国の艦艇建造能力

 今まで、人民解放軍海軍の艦艇数の増大は、古い艦艇を新しい艦艇に更新してきたために数字上は目立ったものではなかった。しかし、今や状況は大きく変化している。これに対抗してトランプ政権は350隻海軍を、米海軍は355隻体制を目指しているが、人民解放軍海軍の拡大を十分に織り込んでいない。

 つまり、今後13年間で人民解放軍海軍が米海軍を数的に凌駕することになる。米国の艦艇建造計画において、中国の艦艇建造能力を過小に評価することはアジア太平洋地域におけるリスクを高めることになる。

 人民解放軍海軍の過去15年間の増強は過去に類を見ないものである。第2次世界大戦以降のいかなる海軍の増強をも凌駕している。人民解放軍海軍の増強がピークに来たと思う者もいるであろうが、今後15年間にわたってその増強のペースは衰えないであろう。

 以上の予測の根拠は、過去・現在・未来の造船能力、艦艇と兵器システムの近代化の状況、海軍作戦の成功裡の拡大の状況、中国の公式な「現代的なグローバルな海軍建設」という声明である。

●中国における2大国営造船会社

 中国の造船産業は、最新鋭の海軍艦艇を製造するのに必要な技術や能力(複雑な設計、システム統合を含む)を向上させてきた。

 中国の2大国営造船会社は、中国船舶重工業集団(CSIC: China Shipbuilding Industry Corporation)と中国船舶工業集団(CSSC: China State Shipbuilding Corporation)である。

 CSICが中国最大の船舶建造・修理グループで、傘下には中国最大の造船会社である大連船舶重工集団など46社、科学研究機関28か所、従業員14万人を誇る。主として北部と西部地区の造船所を統括している。CSSCは、主として上海、沿海、南部地区を統括している。

 人民解放軍海軍は、広い分野の産業基盤と多くの熟練工を活用することができる。中国のCSICとCSSCは熟練工の数の点では、米国のジェネラル・ダイナミックス社とハンチントン・インガルス社を凌駕するマンパワーを保有している。

 中国の2010年から2014年の間における主要水上艦艇製造能力は、それ以前の10年間の2倍になっている。2017年の国防費の伸び率は7%と2桁台には届かなかったが、順調に国防費も伸びている。今や415隻体制に拡大する準備が整っている。2030年の人民解放軍海軍は、現在の海軍とは違う様相になるであろう。

結言

 米海軍350隻(2046年における目標)に対して人民解放軍海軍415隻(2030年の予測)の比較は対象年が違うだけに難しい。

 しかし、エリクソン教授は、2020年と2030年の評価として、次のように述べている。

 「人民解放軍海軍は2020年までに世界第2位の海軍になる」

 「2030年までにハードウェア面において、米海軍と量においてそして質においても(たぶん)同等になる」

 「2030年までに人民解放軍海軍は、作戦の熟練度や遠海における高烈度な作戦の実施においては初期の段階だが、近海(黄海、東シナ海、南シナ海)におけるシーコントロールを巡る係争地域において、米海軍の作戦に積極的に対抗する大きな能力を保持する。そして、近海以遠に対する影響力も拡大していく」

 「2020年までに中国は、米海軍が装備する対艦巡航ミサイル以上の射程を持つミサイルを大量に保有できる」*5

 ただし、中国経済が大不振に陥るなどの状況になれば話は違ってくる。米海軍大学の予測は、今までの趨勢が将来も継続することが前提となる。

 以上のようなエリクソン教授の評価を勘案すると、トランプ大統領が打ち出した350隻海軍構想は、アジア太平洋地域において人民解放軍海軍に対抗するためにもぜひ実現してもらいたいものだ。

 米海軍がアジア太平洋地域で人民解放軍海軍に数で圧倒される事態になると、中国近海(黄海、東シナ海、南シナ海)がまさに中国の海になってしまう。

*5=“Chinese Naval Shipbuilding”のP7~P8