ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)が建設予定のメキシコ国境の壁に今、大きな疑念が生じている。
「不法移民を食い止めることはほとんどできない」という現場からの声が上がっているのだ。不法移民は壁を建設したところで、国境を越えてくるという。
約3100キロの国境のうち約1100キロには、すでにフェンスが施設されている。これから建設する予定の地域も含めて、フェンスや壁が有効な手だてにはならないというのだ。
国土安全保障省の税関・国境取締局に25年以上も勤務していたA.ガルシア氏が問題点を指摘する。同氏は既存のフェンスの設備・保全管理をしていた人物だ。コラムニストのスティーブ・ロペス氏の取材に答えている。
「何としても米国へ行く!」
「不法移民とはイタチごっこだね。人力では曲げられないような鉄製のフェンスにちゃんと人が通れるだけの穴を空けてくる。ブロックするという米政府の漠然とした意図より、『何としても米国に行く』という彼らの思いの方が強いんだ」
ガルシア氏は退職するまでの25年間、フェンスにできた抜け穴を埋めることを主業務にしてきた。四半世紀でおおよそ2万個の抜け穴を塞いだ。
1日の就労時間内で平均5個の抜け穴を埋めた。曲げられたフェンスの鉄柱を真っ直ぐにしたり、切断された鉄製の鎖を直したりする。抜け穴の横には切断用の工具が置かれていることも少なくない。
ガルシア氏の見立てでは、いまあるフェンスがコンクリート製の壁になっても不法移民はロープを使って壁を乗り越え、トンネルを掘って米国になだれ込んでくるという。25年間の経験からくる結論だ。
「壁を張り巡らすのは税金の無駄だね。不法移民を完全にシャットアウトすることはできない」
カリフォルニア州南部、メキシコ国境に面したカレキシコは農業が盛んな都市だ。ニンジン、ブロッコリー、麦、レタスなどが生産されている。収穫時には中南米からの移民労働者に頼らざるを得ない。
というのも同市では白人が、「野菜の収穫をすることはない」というのだ。腰を曲げて野菜を一つひとつ収穫する作業は移民たちに任されている。ガルシア氏は不法移民たちに期間限定のビザを発給することで、同問題を是正できると考える。