最強の風味「くさや」はどうして誕生したのか

古の知恵が生んだ独特の水産発酵食品

2016.12.02(Fri)佐藤 成美

塩の節約から生まれた「くさや」

 強烈なにおいに度肝を抜かれるのが「くさや」だ。食べたことがなくても、くさいことを知っている人は多いことだろう。

 くさやは主に新島や八丈島など伊豆諸島で作られる干物で、魚をくさや汁というつけ汁に漬けた後、乾燥させたものだ。強烈なにおいとは裏腹に味はよい。その上、普通の干物よりも腐りにくいというから驚きだ。

 一般的な干物は、開いた魚を10~15パーセントの塩水に漬けた後、乾燥させる。かつては、伊豆諸島でも同じように干物を作っていたのだろう。江戸時代、島では年貢を塩で納めていたため、塩は手に入りにくく貴重なものになってしまった。塩を節約するために、塩水を繰り返し使ったところ、塩水に魚から出る成分も混ざって次第に腐り、強いにおいを放つようになった。

 ところが、この塩水で作った干物は味もよく、むしろ腐りにくかった。島ではこの塩水、つまりくさや汁を数百年も守りつづけているという。くさやの風味は、くさや汁にすみ着く微生物によって生じると考えられている。

「くさや汁の微生物を調べたところ、菌の種類は独特で、新種の菌も見つかっています。また、実験の結果、くさや汁の中では食中毒菌は増殖せず死滅しました。くさや汁には特殊な菌がおり、くさやの独特の風味を生み出すだけでなく、腐りにくくしていることが分かりました」と、水産発酵食品を研究する東京家政大学大学院客員教授の藤井建夫氏が説明する。

「島には、『くさや汁を連続して使うといいくさやができない』『長い間使わないとくさや汁が死んでしまう』『ときどき撹拌しないといいくさやができない』などの言い伝えが残されています。こうした言い伝えが残るのは、いいくさやを作るには、くさや汁の中の微生物のバランスを保つことが大事だからなのでしょう」

自己消化でうまみを作る

 代表的な水産発酵食品には「塩辛」もある。イカの塩辛がおなじみだが、「酒盗」(しゅとう、カツオの内臓の塩辛)や「うるか」(アユの内臓の塩辛)、「このわた」(なまこの内臓の塩辛)などの珍味があり、酒の肴として人気が高い。

 塩辛は、魚の筋肉や内臓に十数パーセントの塩を加えて、熟成させたものである。イカの塩辛では、イカの切り身に肝臓と塩を加えて、2週間ほど熟成させる。

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