オートファジーのメカニズム

 ここで、ごく簡単にオートファジーのメカニズムにも触れておきましょう。この種の解説はカラフルなイラストを多用した専門家による優れたものが早晩出ると思いますので、あくまで参照程度ということでご勘弁下さい。

 オートファジーの「オート」は「オートグラフ」自叙伝のオートで自己、ファジーは「マクロファージ」アメーバ白血球の食細胞と同様、食べるの意を持つラテン語で「自食」と訳されるゆえんです。

 小は酵母から大は人間まで、真核生物、つまり細胞の中に核(nucleus)を持つ生き物はほぼすべて、自食の作用を備えていると考えられます。

 細胞を構成するたんぱく質は熱的に劣化などしてなし崩しに壊れてゆくのではなく「車検」のように一定の期間が経過すると能動的に分解され、新たに合成されるものとバランスを取っています。

 この中で、車で言えばファンベルトやオイル交換のように短寿命のタンパク質の分解は「プロテアソーム系」と呼ばれるメカニズムが働きますが、エンジン本体のより長寿命のパーツは、それを丸ごと分解(バルク分解と呼ばれる)するのがオートファジーのユニークなメカニズムになっている。

 典型的なオートファジーのプロセスを大阪大学吉森研究室の解説に添って追ってみましょう。

 まず、細胞の中に「隔離膜」と呼ばれる扁平な膜が出現します。これがいつ、なぜ、どのように出現するかといったメカニズムはまだ知られていないようです。

 ともかくこの謎の「隔離膜」はクラゲのアタマのように湾曲しながらどんどん大きくなり、これから「自食」しようとする細胞質やミトコンドリアなどを風呂敷のように包み込み、最終的には風呂敷の末端が融合して閉じ、直径約1ミクロンほどの風船状の球の中に閉じ込めてしまいます。

 この風船が「オートファゴゾーム」と呼ばれるものです。

 そこに細胞内の消化薬とでも言うべき「リソソーム」が近づき、融合して「オートリソソーム」と呼ばれる状態になり、リソソームから供給される加水分解酵素によって中味が分解・消化されてしまいます。

 この間、ものの数十分だそうで、あっという間に長寿命の部品がバラバラのパーツに分解されてしまう。それらはまた別の用途に役立てられることになります。「車検」と言うよりF1のタイヤ交換などに近い早業と言うべきかもしれません。

 オートファジーの現象自体は1950年代から知られていたそうですが、その分子機構の解明は全くなされておらず、長らく謎とされていたそうです。

 そこにブレークスルーを与えたのが1993年、出芽酵母のオートファジー不能変異株・atgの同定という画期的な業績で、これが今回のノーベル医学生理学賞の単独授賞に直結しているものと思います。