同様のことが、私たちの日々の眠りの中でも、身体の中で起きていることが考えられます。
新陳代謝(Metabolism)は取り立てて耳新しい言葉ではありません。
例えば、古くなった皮膚が角質化し、垢になって落ちていく。別段どうということはないように見えます。
人は、やれ重い病気だ流行性の疾患だ、などというと、すわ大事と構えてかかりやすいですが、健康な人がその健康を維持し続けているだけ、という「当たり前」にはあまり注意を払いません。
例えば、製薬会社も保険屋さんも、普通の健康維持を取り立てて大変なことだと思わないでしょう。
しかし、よく考えてみると、私たちの生命活動には一時の休みも本質的にはありません。心臓が「ちょっと疲れたから15分休ませて」となったら・・・。15分後に私たちは再び息を吹き返す保証がありません。
人間の臓器、細胞、身体の各部位が、各々その機能を基本的には維持しながら、困ったパーツがあれば分解して新しいものと取り換える、それを操業状態のままやってのけるというのは、実はまさに驚くべきことであるのに、それと気がつかなければ「そんなの常識~」と見逃してしまう。
早い話が儲からない。派手でもなければ話題にもなりにくい。そんな基礎中の基礎の、そのまた基礎と言うべき新陳代謝のメカニズムの不思議。
それを見逃さなかったのが大隅先生であり、この「生きたままパーツ交換」という、およそあらゆる生命が自身を維持するうえ最も重要なメカニズムを解き明かしたのが「オートファジー」の業績です。
医学生理学のノーベル賞で単独受賞というのは(草創期は別として)21世紀に入ってから2例目。1990年以降の26年で4例、その前は利根川進さんの免疫グロブリン(87年)孤高の遺伝学者バーブラ・マクリントック女史の可動遺伝因子(83年)、エール・サザランドのホルモン作用機構(71年)と、この半世紀を振り返っても6件しかない。
まさに「横綱級」と言われてふさわしい大業績であるのが分かるかと思います。