第2次世界大戦前後の心理学のスタイルに「行動主義」という考え方があります。心理とか認識というと現代人は「脳」とか「心」とか考えやすい。しかし必ずしも常にそういうことばかりを心理学が追求していたわけではないのです。
第1次世界大戦後、軍事研究として大いに推進された心理学分野に、乗り物を運転中の兵士の心理と行動があります。
もっと正確に言えば、第1次世界大戦を通じて船以外の「のりもの」という兵器が一般化したと言った方がよいかもしれません。陸上の戦闘は19世紀いっぱい「のりもの」と言えば馬であって、大砲なども人馬が引いて動かしていた。
「自動車」「飛行機」こうしたものは第1次大戦―戦後に一般化するわけですし、装甲車、戦車の類は第2次世界大戦―戦後に普及したものです。
軍事研究としての行動主義心理学
馬はかつて、長い歴史を通じて人類の大切な兵器でした。が、飛行機ほど高価ではなかったし、生産も古典的、牧場で仔馬を育てて訓練。ただしこの兵器は餌も食えば水も飲み、排泄物もあるという現代と少し違う側面があります。
いや、形は違うだけで同じかもしれません。現代の兵器も餌=燃料を食いますし排ガスその他の排泄物もまき散らしながら進む。ただ、飼い葉や馬糞拾いのバケツにはあまり軍隊ではお目にかからなくなった。
日本は社会が馬車と共にあった時代が短かったので、馬に適した建築物や道路に国内でお目にかかることは少ないですが、欧州の大都市旧市街は大半が石畳を温存し、馬に水をやるポンプその他がそのまま残っている場所も少なくありません。
現在でもミュンヘンの英国式庭園の中を警らする巡査は馬に乗ってパトロールしていると思います。
と話がずれました。初期の飛行機は非常に高価で貴重でした。パイロットの人間はまだ替えがいるけれど、「飛行機は墜落してくれるな。故障してもできるだけ生還してくるように」というパイロットの訓練テクノロジーもまた「軍事心理学」の研究対象として資金と精力が傾注された分野でした。
ここではパイロットの脳がどうした、とか言ってもあまり意味がない。要するにどのタイミングで何に注意してどう操縦桿を引けばよいか、といったノウハウが問われた。
「アフォーダンス」の概念で知られる生態心理学のJ.J.ギブソンもまた行動主義軍事心理学の研究者としてこうした問題に取り組んだ1人でした。