さらに、現地のマイクロファイナンス機関との連携も新たに開始した。マイクロファイナンスとは、貧困層向けに小口の融資や貯蓄のサービスを提供して零細事業の運営を支援することで貧困からの脱出を後押しする仕組み。
例えばバガンでは、国内最大のマイクロファイナンス機関であるPACTの活動先に同社の営業部隊が同行。村々を回ってソーラーストレージについて説明しながら「使ってみたいと思ったらPACTのマイクロファイナンスを利用してほしい」と呼び掛けている。
「マイクロファイナンスとの連携が、今のところ、初期投資の負担を下げる唯一の方法」だと考えているからだ。連携は昨年末にスタートしたばかりだが、村人たちの反応は上々だ。
「お客様のそば」へのこだわり
もともと海外での仕事に関心があり、大学で経済学を学んだ後、1993年、中国市場に積極的に進出していたパナソニックに営業職として入社した前田さん。
ドイツと英国で勤務したり、国内で法人向け商品の営業などを経験したりした後、2003年よりシンガポール、インドネシア、そしてタイに駐在。2009年からは再びシンガポールに駐在し、アジアオセアニア全域の統括業務に従事した。
しかし、次第に顧客との距離感にもどかしさを感じるようになり、「もっとお客様のすぐそばで仕事がしたい」と上司に相談。それならば、と2013年4月に渡された辞令に書かれていたのが、ミャンマーだった。
アジア地域担当になって13年目にして初めて任されることになった支店の開設業務。しかし、欧米諸国が経済制裁を強める中で、同社がこの国から一時撤退を余儀なくされてから10年が経っていた上、世界の市場でも4年ぶりの新規支店であり、開設経験者が社内にほとんど残っていなかったことから、準備は苦労の連続だった。
なんとかヤンゴン支店をオープンしてからも、コンドミニアムやフライオーバーなど市内の至るところで進む空前の建設ラッシュ需要に食い込むべく、ホームエレベーターの据え付けやメンテ指導を実施。
さらに、都市部に住む富裕層(TopofthePyramid)を顧客に取り込むべく、デジカメ教室やビューティー教室などを企画しショールームに誘導するなど、奮闘は続く。
実際、売り上げの主力を占めるのは、エアコンをはじめ、冷蔵庫や洗濯機、AV製品などの家電製品だという。
それでも前田さんは、忙しい仕事の合間を縫って時間を捻出しては無電化村に足を運び、BOP層の暮らしに触れることを心掛けている。
それは、いつか彼らの所得が向上し、初めて触れた電気製品のことを思い出してパナソニック製品を選んでくれる日を見据えた将来的なマーケティング活動であると同時に、「自社の製品を通じてこの国をより良くしたい」という、自身の原点の思いに立ち返るための大切なステップでもある。
そしてそれは、かつて半世紀以上前に日本政府の戦後賠償に協力した松下電器時代から脈々と同社で受け継がれてきたDNAなのかもしれない。
今年2月には、JICAが公示していた協力準備調査にも採択され、BOP層を対象にしたソーラーランタンとソーラーストレージのビジネスモデルについて検討を始めた。
BOP層とTOP層。二極化するこの国の人々の暮らしを両方にらみつつ、「お客様のそば」にこだわりながらビジネスと社会課題の解決に奔走する企業人の情熱が、この国の行方を照らしている。
(つづく)