しかしながら、自衛隊幹部は寝不足が大好きである。海上自衛隊のある護衛艦の士官は平均2時間睡眠だと言い、それを誇りにしている。他の艦艇も多かれ少なかれそういう面がある。陸上自衛隊も同様だ。陸上幕僚監部の幕僚たちは、何日も家に帰っていないことを自嘲気味に自慢し合うし、ほとんど寝ていない。実際、筆者の個人的体験だが、ある与党議員へのレクチャーにやってきた幕僚たちは、事前に決めた秒数ぴったりに手元のメモを一言一句そのまま読み上げる上司の横で舟を漕いでいた。
自衛隊と米軍の共同演習でも、当初は自衛隊側がハイテンションで優位に立つものの、最終的には寝不足で劣勢に追い詰められていくという、まるでかつての太平洋戦争のような展開になることもしばしばだという。皮肉なことに、最近の共同演習では、陸上自衛隊も米軍を見習い、24時間体制ではなく交代制を導入したが、他の日常等の勤務では変わりがないため、演習時が最も寝られる時間であると幹部たちは皮肉っている。
しかも、その自衛官達の行動を支援し、軍事行動の政治的な影響をチェックして大臣を補佐すべき内局官僚たちの多くも、どう見ても寝不足状態の人間が多いし、寝ていることに否定的な組織文化がある。
自衛隊員が寝不足に陥るのは、メリハリのない無意味で過剰な勤勉主義、自治体の御神輿の担ぎ手から熊本のごみ処理まで手掛けるなど任務の増大、IT化と統合運用により作戦展開が高速化して逆に仕事が増えていること、足りない充足率(特に艦艇は充足率が低いのでより苛酷に)など、様々な要因がある。そして、これらはより悪化していっているのである。
だがこのままで良いはずがない。海外に展開中の戦時の米軍幹部より、平時の自衛隊幹部がそれ以上、もしくは同様に忙しいのは、どう考えても異常である。今こそ自衛隊幹部や内局官僚がぐっすり睡眠し、中国と不幸にして衝突したとしても、政治的・軍事的に正しい判断を彼らが決断できるようにするための組織文化の改革、優先順位付け、体制改革が求められている。