干し椎茸。干すことで保存性が高まるとともに、風味も増す。

 ここのところ、ずっと干し野菜ブームが続いている。

 料理雑誌やライフスタイル誌では定期的に特集が組まれ、健康的な食材であることが喧伝されている。書店の料理本コーナーにも一時期ほどではないが、干しかたから調理法までを指南した本が、必ずといっていいほど見つかる。

 干し野菜といって思い出すのは、いまから十数年前に住んでいたアパートの窓からの風景だ。

 隣家にはおじいさんが一人で住んでいた。その2階のベランダがちょうど我が家の窓の目前にあった。ベランダでは時折、白い肌着のシャツに混じって、しいたけや玉ねぎがぶら下がっていた。秋には柿が風に揺れていたこともあった。

 昨今は、虫や鳥の被害を防ぐ専用のネットが売られている。だが、隣家ではそんな気のきいたものは使っていなかった。紐で一つひとつを縦にくくりつけてぶら下げる、あの昔ながらのやりかただ。

 それはおじいさんとしては、一人では多すぎる食材を保存するための当たり前の行動だったにちがいない。だが、それはどこか懐かしい風景として私の目に映った。洗濯物が取り込まれた夕暮れどきなど、都会にいながらにして農家の軒先を見ているかのような眺めだった。

 あの風景と昨今の干し野菜ブームとは、本質的にやっていることは同じだ。だが、どこか隔たりがあるように感じられる。それはなぜなのか、台所での「干す」の移り変わりを追ってみた。

最古の保存法

「干す」は、人類がもっとも古くから行ってきた食料保存の方法である。

 現代とちがって冷蔵庫がない時代、人々は食料を保存するために頭を悩ませてきた。そして編み出されたのが塩漬けや燻製、発酵などの加工法だ。そのうち、ただ天日や風にさらすだけの「干す」がもっとも手っ取り早い方法だったことは想像に難くない。

 古くは紀元前2500年頃、古代エジプトの壁画に魚を開いて干す様子が描かれている。日本でも縄文時代の貝塚から、干物にした形跡のあるフグの骨が見つかっている。