1.習近平政権の政治基盤の安定性に変化の兆し
4月下旬に北京と上海に出張した。目的は定例の中国経済情勢に関する現地での情報収集である。習近平政権が掲げる「新常態」の方針の下、的確なマクロ経済政策運営と積極的な構造改革の組み合わせによって、経済の安定が保持されており、安心して見ていられる状況である。
この点については、今回の出張中に面談した政府内および民間の経済専門家の全員がほぼ一致した見方をしていた。
しかし、その面談相手と話しているうちに、「経済は安定しているが、最近政治情勢が不透明になってきていて心配だ」との懸念を耳にすることが少なからずあった。
これまで習近平政権が行ってきた政策について、政治面では反腐敗キャンペーンの断行が国民的支持を得ている。
経済面でも雇用と物価の安定を確保し続け、過剰設備の削減や過剰不動産在庫の処理への取り組みも一定の成果を上げるなど、こちらも高い評価を得てきた。最近は政治リスクの高い軍組織の抜本的改革まで実現し、着々と政策の結果を積みげてきている。
こうした政策面の大きな成果もあって、多くの国民から「習おじさん」(中国語では「習大大」、シーターターと発音)と親しみを込めた愛称で呼ばれるなど、政権基盤も安定度を増していた。
ただし、有識者の間では、学者やメディアに対してイデオロギーや政府批判に関わる活動の取り締まりがますます強化されてきていることに対する疑念がしばしば指摘されていた。
それでも昨年までは習近平政権の政治的な安定性が強まる傾向が続いていたように感じられていた。
しかし、今回の出張中およびその後に耳にした習近平政権に対する評価は、そうした従来の政権基盤の安定性の増大傾向に変化の兆しを感じさせるものだった。