「軍事闘争」へ備え=中国首相

中国・北京の人民大会堂で開幕した全国人民代表大会(全人代)に出席し、演壇に立って拍手する李克強首相(2016年3月5日撮影)〔AFPBB News

1.全人代で示された今年の経済成長率目標

 全人代が開幕した3月5日、李克強総理が政府活動報告の中で今年の政策運営目標を発表した。特に注目を集めたのが、今年の実質GDP(国内総生産)成長率目標を6.5~7%としたことである。

 今年は第13次5か年計画の初年度に当たる。この5か年計画の成長率目標を6.5%以上としたことから、初年度の今年からその目標を下回るわけにはいかないというのが、今年の成長率目標の背景にある判断だったものと推察される。

 しかし、1月下旬に筆者が北京で現地の信頼できる経済専門家と意見交換を行ったときに得た情報では、今年の成長率が7%に達する可能性を指摘した人は誰一人としていなかったほか、6.5%に到達することすら容易ではないという指摘が少なくなかった。

 昨年の成長率は6.9%だったが、これは昨年前半の大幅な株高に伴って株式市場の取引量が急増し、それが金融分野の手数料収入などの拡大に大きく貢献したため、金融分野の成長率に対する寄与度は0.3~0.4%に達したと見られている。

 株価は6月中旬以降急落し、株式売買高は第4四半期以降、低水準で推移している。したがって、今年は昨年に比べて金融分野の成長率に対する寄与度が大幅に低下するため、その要因だけで今年の成長率は昨年に比べて0.3~0.4%低下する。

 他の条件が変わらなければ、今年の成長率は6.5~6.6%にまで低下し、政府の成長率目標の下限に達する。

 加えて、政府活動報告の中で、今年の重点政策として、石炭、鉄鋼を中心とする過剰設備の削減が強調されている。これには非効率な経営が原因で事実上倒産状態にもかかわらず金融機関の支援によって生き延びているいわゆる「ゾンビ企業」を市場から退出させる措置も含んでいる。

 この政策に対しては、工場の操業停止、企業の倒産等による失業増大、税収減少を懸念する地方政府と、貸出債権の不良債権化を懸念する金融機関がいずれも抵抗している。中央政府はその抵抗を押し切って、このリストラ策を強力に推進しようとしている。

 中央政府の目標通りに過剰設備の削減やゾンビ企業の市場からの退出が進めば、失業率が増大し、消費にもある程度マイナス効果が及び、成長率の押し下げ圧力が生じる。その点を考慮すれば、投資と消費の両面で昨年に比べて成長率への寄与度が低下する可能性が高く、政府目標の6.5%の達成は難しくなるのは明らかである。

 そこで、政府活動報告の中では、財政・金融政策の両面から景気下支え策を実施し、成長率の引き上げを図ろうとしている。

 具体的には、鉄道、高速道路、発電所、送電網などのインフラ建設を拡大するとしている。こうしたマクロ政策面からの成長率押し上げ策により、何とか6.5%の政府目標の達成を図ろうとしている。