中国のサーキットブレーカー、「誤った治療法」と専門家

中国・上海の歩道橋に映し出された、急落する上海と深センの株価(2016年1月7日撮影)〔AFPBB News

1.昨年央以降不安定化が続く中国の為替・株式市場

 今年は年明け早々から中国の為替・株式市場が荒れた展開となり、その影響を受けて世界の金融市場が不安定化している。

 中国の為替・株式市場は昨年央以降、不安定な状態が続いていた。9月から10月にかけていったん落ち着いたかのように見えたが、10月24日に中国人民銀行が預金・貸出基準金利と預金準備率を同時に引き下げたことを契機に元安期待が再燃した。

 中国人民銀行は巨額の為替介入を続けて、必死に大幅な元安を防ごうとしてきたが、現在に至るまでその努力は満足できる成果にはつながっていないように見える。巨額のドル売り元買い介入の結果、外貨準備は11月以降、3か月連続で月間約1000億ドルの急速なペースで減少を続けている。

 こうした状況下、中国政府は状況打開のために以下のような様々な政策措置を講じたが、市場との対話能力が不十分なため、市場参加者の理解と信頼を得られていないことから、依然として根強い元安期待を払拭することができず、元売り圧力との戦いが続いている。

 中国人民銀行が運営するCFETS(中国外貨交易センター、The China Foreign Exchange Trade System)は昨年12月11日、「CFETS人民元為替指数」の公表を開始した。これは13の通貨からなる通貨バスケットを人民元レート決定の参考指標として示すものである。

 これまで対ドルレートばかりに市場参加者の注目が集中していた状況を修正し、通貨バスケットに連動する形で人民元レートを動かす方向に持っていくことが、同指数の公表を開始した中国当局の政策意図である。

 2014年央以降、人民元の対ドルレートはほぼ同水準を維持してきたが、昨年8月の基準値算定方式の変更以降元安方向に向かい、1月末では昨年7月対比8%程度元安になっている。しかし、実質実効レートを見ると全く異なる推移を示している。

 2014年6月から2015年7月にかけて15%強の元高となり、昨夏以降もほとんど元安にはならず、過去最高の元高水準圏内を維持している。中国通貨当局はこの事実を示して、昨夏以降も中国政府には人民元安に誘導する意図がなかったことを示そうとしたものと推察される。

 そうした当局の意図に反し、市場参加者はCFETS為替指数の公表を中国政府が人民元安を容認する姿勢を示したものと受け止めた。

 それは同指数公表開始の数日後の12月16日(米国現地時間)に決定された米国の利上げによって、通貨バスケットに含まれる他通貨がドルに対して減価したため、同指数を参考にして人民元レートを誘導することがドルに対して元安方向に向かうことを意味したからである。

 このため、同指数の公表がかえって人民元売り圧力を強めさせる結果を招いてしまった。